第192話 助け船

走り去っていくイハマトに、茫然とするオステリア達。


「す、すごい子ね。まだ幼いのに個性のかたまりって感じ。」


「な、何だったのじゃ?あの子は?」


ルシナは何だかソワソワと心配そうにしている。


「何を心配しているんだ?ルシナ?」


「鳥みたいなスピードで向こうに行ってしまったけど……、大丈夫かな?」と、ルシナはイハマトが一人で行ってしまったことを心配しているようだ。


「そうか。ルシナはイハマトが危険にさらされないか心配なんだな。」


「うん。そうだよヤマト……、この大陸は竜種がたくさんいるじゃん?だからさ。」


すると、オステリアが笑った。


「それは杞憂でしょ、ルシナちゃん。あの戦闘力よ?竜種のほうが逃げていくと思わうわ。」


「あはは……、たしかに。」


笑い合うヤマト達に、リーランが後ろから真剣な声を上げた。振り返ると、リーランは「合点がいかない」という表情をしていた。


「どうした?リーラン?」


「あの子と突然に背後から現れたわよね?それに向こうはヤマトの名前を知っていたみたいだし。どういうことなの?」


「それは……。」


「そうじゃ。さきほど、急に転移して背後に回ったな?すると、あの小娘を連れておった。どういうわけなのじゃ?」と、リリスが詰め寄ってきた。


「あ、あれは背後に彼女の気配を感じてだな……。」


「敵かと思ったというわけか?」


「そ、そう!そうなんだ。」


すると、聖龍が口を挟む。


「その割には手をつないで現れたぞ?敵なのに手をつないでおったのは何故じゃ?」


「そ、それは……聖龍。」


「ちゃんと説明して。ヤマト。あの子は、ちょっと異常よ。放置できないわ。」


「リ、リーラン。」


メンバーに詰め寄られるヤマト。


はっきり言って、言い訳が苦しい状況である。


ここはネオエンジル大陸。あのような幼女がいること自体がおかしい。さらに、ヤマトと知り合いのような口ぶり。それを嘘で塗り固めたとしても、幼女イハマトの異常な戦闘力。


ここで言い訳が成立したら、詐欺スキルSSSをもっているとしか言えない。


【ヤマトよ……。ヤマト。聞こえるか?】


「……!?」


すると、グランドフがテレパシーで、ヤマトに交信を求めてきた。


【グランドフ?】


【ヤマト殿……いま、テレパシーで語りかけている。】


【今。その時間は……。】


【大丈夫だ。このテレパシーは時間概念を超えている。ここでの会話は、表面上では数秒に満たない。】


【そ、そうなのか。すげーな。】


いろいろ、スキルを隠しもっていそうなグランドフ。彼女は美しい美少女の容姿だが、太古から生きている伝説上の存在ということを思い知らされた。


【それで?何が知りたいんだ?イハマトのことだよね?】


【うむ。オヌシが口ごもっていたのでな。老婆心ながら、入らせてもらった。あのイハマトという娘。この世の者ではないな?】


【この世の……いや、この世の者であることは間違いないんだけど、ちょっと世界が違う。そういう子だ。】


【……そうなのか。詳しく聞かせてもらえぬか。ことの次第によっては助けてやろう。】


【なぜ急に?】


【オヌシは我の命の恩人でもある。】


【俺がつけた傷なのだけどね……。】


【それでも命を救ったことには違いない。それで?イハマトは何者なのだ?】


【そ、それは言えない。】


【…………。では。まず我の推測を述べてやろう。我は古龍という古の精霊に近き存在。先に現れた黒い球体。あれが何者か、おおよそ推測がついておる。あの黒球体は”はじまりの精霊”ではないのか?】


【…………!】


【その反応……やはりか。】


【し、しまった。】


しかし、はじまりの精霊のことはメンバーに伝える予定だったヤマト。問題は、イハマトの存在である。未来から存在ということは知られてはならないのだ。


【ふ……。それと、あの娘。イハマトとか言ったか?あれは、そこにいるエルフの王女とオヌシの娘であろう?】


【…………な!?】


ヤマトは驚いた。グランドフがなぜそこまで突き止めているのか……、ヤマトはグランドフをなめ切っていたとしか言えない。


【グランドフ。なぜそれを!】


【否定はせんのだな。】


【ここまでハッキリ聞かれてるのに、俺はお前には嘘をつきたくない。】


【なぜじゃ?うむ。我はおぬしとの会話が途中だったため、敵という位置は変わらぬ。しかし、オヌシが言いかけたカリアースとの盟約について、何か知っているようだった。それが関係しているのか?】


【グランドフ盟約のことか?】


※※グランドフ盟約※※

カリアースが、グランドフを結んだ盟約。カリアースの後継者が現れたら、グランドフは後継者と『反転融合』を行う。その代わり、ネオエンジル大陸に人類は干渉しない。


【そうだ。】


【なぜ、我に嘘をつきたくないのだ?何が関係しているのだ?】


【ヤマト・カリアースは転生元なんだ。】


【何!?】


【厳密にいうと、俺は転生を繰り返しているから、数世代前だけど。】


【つ、つまり……。オヌシは。】


【ああ、俺はカリアースの意思を継ぐ者だと思う。……うん、絶対そうだ。俺以外にあり得ない。】


【なんと……。】

しばし、無言になるグランドフ。

【では、ますます信頼してくれ。オヌシが話した内容は、オヌシの許可なしに喋らん。】


ヤマトは悩んだ。先ほど、イハマトと交わした約束をすぐに破ることになる。それは避けたかった。


しかし、ここで黙っていた龍眼が会話に参加する。


【ヤマト……孫よ。グランドフにすべてを話すべきじゃろう】


【龍眼?】


【このグランドフは信頼できよう。】


【いいのか?】


【どのみち、反転融合をすれば、すべてが露呈するじゃろう。】


【そ、そうか。】


【ヤマトよ。このテレパシーに入ってきているのは?】


【ああ、これは俺の魔眼である龍眼だ。】


【なんと……。魔眼持ちであったか。】


【グランドフよ。我とオヌシは一度会っておるのじゃぞ。】


【何!?一体それは………。】


【…………説明すると、長くなる。孫よ……ヤマトよ。グランドフに説明してやれ。】


【わかった……。】

ヤマトはグランドフにすべて語った。

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