第188話 スキル【時空の旅人】
イハマトが、時間移動をするための準備を進めると言い出した。
「これから時間移動をする準備をするから、ちょっと30分くらい頂戴。パパはその間、私のそばを離れないでね?」
「準備って、どんな?」
「まず、スキル”時空の旅人”で、時間移動の宝玉を出すの。」
「宝玉?」
「見たほうが早いわね。」
イハマトは右手の平を上かるく上に向けた。
シュワワァ!と、水音がしたかと思ったらそこに直径10cmほどの小さい水の球体が発生した。
キラキラと光っている水球は、手の平から数ミリ浮いていて、くるくる回転している。その水球の中心に何か淡く光る物体があるのか、水球を内側から照らしている。
「うわ……。綺麗な水球だな。」
「これが時間移動の宝玉。これに魔力とアルケルを注ぎ込む感じ。」
「これに魔力を入れると時間移動できるの?原理がよく分からない。」
「とにかくパパは私の横に立っていて。かなり集中力が必要だから、話しかけないでね。」
イハマトは、人差し指を自分の隣りに差す。どうやら、そこに立っていろと言っているようだ。
「わ、わかった。」
「それと……、準備が終わり次第にママたちを助けにいくけど。私が”時空の旅人”スキルを持っているって内緒にしてね?」
「ど、どうして?」
「時間移動能力は、あまり知られないほうがいいの。ママたちも混乱すると思うし……。」
「そ、そうなのか?」
「そう。時間移動能力って言う存在を認めたら、自分たちがしている”今”を疑いはじめてしまうから……。」
「どういうことだ?」
「うーんと……。そうね、パパの”今”があるじゃない?」
「今……。うん、今の俺があるとする。」
「それが、過去の誰かが操作したものだって思ったことはない?」
「そんなことを思ったことは無い。」
「でも今なら? 敵である”はじまりの精霊”に過去を行き来できる能力者がいる。それを認識した今なら?」
「た……確かに、今の俺が100%。自分の判断によって出来上がったものだって言えないかもな。不安になる。過去に、はじまりの精霊が介入しているかも知れないし。」
「でしょ?だから、時間移動能力は伏せておいたほうがいいの。ママたちの未来までおかしなものになるかも知れないし……。」
「そうか。判った。言わないよ。」
「ふふふ。ありがとう。パパ。」
それから、イハマトは集中して水球に何かしていた。
ヤマトは思った(イハマトは、将来は旦那を尻に敷くタイプかもしれない)と……。
それから、イハマトは集中していた。
「……うむむぅ。」と、何か可愛らしい声をときおり出している。
イハマトいわく、時間移動するには膨大なアルケルを使用するみたいで、時間単位にもよるが、半日程度の時間移動でもその準備にどうしても30分以上かかるそうな。
きっかり30分経過……。
水球が激しく光り出した。
「はぁ……はぁ……出来たわ。パパ。」
汗だくなイハマト。かなり疲労しているようだ。このまま時間移動して、ビクルと戦闘なんて大丈夫なのだろうか……。
(いや……、大丈夫だな。イハマトの強さは異常だ。)
「い、行くわよ。パパ!」
そういうとイハマトは、俺の両手を握った。
「も、もう行くの!?」
「そうよ!水球が光ったタイミングがチャンスなの!」
そういうと、イハマトは水球を地面に放り投げる。
放物線を描き、宙を舞った水球は地面スレスレで止まる。
すると、激しく回転をしだした。
「コ、コマみたいに回り出したぞ?」
「あれでいいの。見てて。」
コマの周囲に、虹色の霧が発生しているのが確認できた。
「虹の霧……?」
その霧は半径を広げて、どんどん大きくなっている。
10秒も経過すれば、ヤマト達は霧にすっかり包まれてしまっていた。
「お、おい……。イハマト。」
ヤマトが動揺していると、イハマトはヤマトの手をギュ!と握った。
「大丈夫よ。パパ。この霧が時空への入り口……。」
「時空への入り口……?」
「さぁ、行きましょう。この霧の先に時間を超えた世界があるわ。」
そういうと、イハマトはヤマトの手を握りしめたまま。歩きだした。
「お、おい……イハマト。」
ヤマトはイハマトの手を握りしめたまま、ついていくことにした。
霧の中を進むのは、かなり怖かった。足元に石などあれば、躓いてコケてしまう。そういった細かいことが気になってヤマトは、歩くのが遅くなるのだったが……。イハマトはズンズンと進む。
「お、おい……、もうちょっとゆっくり歩いてくれよ。」
「大丈夫。道は判っているんだから。」
「道なんてあったっけ?」
「スキル能力者しか判らないの。」
「そうか……。」
しかし、無言で進むとヤマトは一つ疑問が浮かんだ。
「…………。」
はじめ、その疑問を無視しようと考えたヤマトだが、どうしても無視できない内容に思えてきた。
「なぁ。イハマト。」
「なぁに?パパ?」
「半日前の時間に戻るとさ、そこには俺がいるんじゃないか?」
「そうね、いるわね。」
「そしたら、同じ時代に2人の同一人物がいることにならない?」
「あ、それは大丈夫。」
「どう大丈夫なんだ?全然大丈夫に思えないぞ。」
「過去のパパは、消えちゃうから。」
あまりにアッサリと言うので、ヤマトは聞き逃すところだった。
「き、消える!?」
「そう、さっきパパが言っていたじゃない。同じ時代に2人の同一人物がいることになるって……。世界はそれを許さないのよ。」
「き、消えた俺はどこに行くんだ?」
「さぁ?」
「えぇ!?知らないの?」
「でも、未来の人間が未来に戻ると、過去の自分は復活するのよねぇ。あれ不思議なのよねぇ……。」
「ふ、復活するの?」
「うん。パッって出てくるの。」
「い、意味が割らない……。」
「その理屈はリリスさんでも解明出来ていないから、いくら考えても判らないと思うわよ。パパ。」
「リリスでも判らなかったのか?」
「うん。いくつかの仮説は立てていたけど、スキル保持者が私だけだったから。リリスさんも【サンプルが少な過ぎなんじゃ!】って、怒ってたけど。」
「あはは……。リリスらしいな。」
「あ!そろそろ出口よ!」
「え!?もう……!?」
霧が一気に晴れる。
目の前には木々に囲まれた森の光景だ。
そして、目の前に広がる光景に驚く。
何と……、そこに居たのはヤマト自身とリリス達だったからだ。
ちょうど、グランドフの治療が終わったところらしく、グランドフを中心に円陣を組んでいる形だ。
「リ、リリス……。オステリア……、イハネ、ルシナ。それにリーラン!グランドフも居る!生きてる!」
「……!」
ヤマトが叫ぶと、皆が驚いたようにこちらを振り向くリリス達。
「ヤ、ヤマト!?」
「え!?ダーリンが二人!?」
そして、オステリア達が『過去のヤマト』を確認しようと視線をズラすと、さらに驚く。未来のヤマトも、驚く。
そこに居たはずの『過去のヤマト』が消えていたからだ。
「あれ!?」
「さ、さっきまでここに居たよね?」と、ルシナも仰天している。
「ヤマト……さま?ですわよね?」と、イハネがこちらを見て首を傾げる。
「スキルで高速移動したの?ダーリン?」
「そ、その子は誰なのじゃ?」
リリス達が近寄ってくる。
どうやら、二人居たヤマトは気のせいで、ヤマトが高速移動した結果だと認識したようだ。
あまりに非常識な現象は自分に都合の良いことへ置き換えるものだ。
そのときだった。
強いオーラを感じたのは……。これは感じたことのあるオーラ。奴のものだ。
オステリアが空を指差す。
「何か来るわ!とんでもない力をもったやつよ!」
ヴォン!
地上に現れるその物体。
あれだけの速度で落下して静かな着地だ。そもそも地面に触れていない。
それは黒い球体だった。
ヤマトは知っている。その目の前に現れたそいつは……。
黒球体………ビクルだった。
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