第133話 預言のプレート

レステール女王は、突然に「自分の娘と結婚しろ。」と言ってきた。随分勝手な提案に聞こえた。


俺の意思は?そこに俺の意思とか希望などは一切入っていない。


「そ、それって……。」


俺が文句を言おうとしたとき、何故かリーランが口を開いた。


「そ、そんなの勝手過ぎます!レステール女王様!」


すると、女王は眉を少し上げてリーランを見る。


「リーラン殿。久しいな、私のことを覚えているか?」


そういうレステールの目は優しさに満ちていた。どうもリーランのことを知っているような口ぶり。


リーランは驚いた。そして申し訳なさそうに口を開く。


「え。こ、これは失礼しました。今日が初めて会うと思っておりました。お会いした記憶がございません。」


「仕方のないこと。私がリーラン殿と会ったときは、まだほんの子供であった。」


「そ、そうなのですか!?」


「そうだ。リーラン殿がカリアースと喧嘩して泣いていたのを慰めてやったこともある。懐かしいの。」


目を細めるレステール女王。遠い過去を思い出しているようだ。


「カリアースのことも……。」


リーランは、女王が自分とカリアースのことを知っている数少ない人物と知って、何も言えなくなってしまった。


そこでオステリアが助け船を出す。このままでは劣勢と踏んだようだ。


「ちょっと、エルフ女王。勝手が過ぎるんじゃない?ダーリンの結婚相手を勝手に決めないでくれる?」


すると、レステール女王は頭を深く下げた。突然のことに俺やオステリアは驚いた。まさか、オステリアに頭を下げるとは思わなかった。


「女神オステリア。改めて挨拶をさせていただきます。先ほどは失礼いたしました。」


「……!あなた……私が女神だって知っているの?」


頷く女王。


先ほどから切り返しが上手い。


「ええ。精霊が騒ぎたてるので、失礼ながら調べさせていただきました。まさか降臨なさっているとは、驚きました。」


「へぇ。やるわね、あなた。」


オステリアの目が真剣になった。エルフ女王のことをナメていたようだが、自分のことを見抜いたことで認めたようだ。


「女神様ほどではありませんが、ダテに長く生きていませんので……。」


「それはともなく、エルフ女王。何故、ダーリ……ヤマトの結婚相手を勝手に決めるの?私の夫のことでもあるし、ことの次第によっては許さないわよ。」


「どうかお怒りをお鎮めください。女神様。私に利のためだけに、このような提案をしているわけではないのです。」


「ふーん……。何か理由がありそうね。一応聞いてあげてもいいわよ。」


「ワシも聞きたい。レステール女王よ。オヌシは無理難題は言わぬほうじゃ。何か理由があるのじゃろう?」


「では……。」


すると、レステール女王はパチンと指を鳴らす。


ブン!


目の前に、光の粒子が無数に発生した。


「光?」


すると、その粒子が集まり。一つの大きなプレートになった。


プレートには、古代文字のようなものが刻まれている。


残念ながら、俺には読めない。


リリスとオステリアは文字を凝視していたが、やがて驚愕に染まる。


「何ぃ!?」


「そ、そんなことって……。」


青ざめた表情の二人は無言で、レステール女王を見つめた。


「…………。これが理由なのです。我が娘は龍人族であるヤマト殿と、世継ぎを残さねばならない宿命なのです。」


俺は訳が判らない。


「お、おい。リリス!オステリア!一体どういうことなんだ?」


すると、二人は俺に教えてくれた。


「ダーリン。これは預言のプレートよ。」


「預言?」


「そうじゃ、預言のプレート。エンシェント・ドラゴン(古龍)の一頭が残したと言われる。絶対未来の言葉が記された言葉じゃ。」


「絶対未来……。」


「そう。全部で10ある預言のプレートは、すべて当たっておる。その未来は確実に起こる。つまり絶対未来なのじゃ。」


「これがその一つってこと?な、内容は?」


オステリアが真剣な声色で、プレートの内容を読み上げた。


【龍人族最後の男は、金色の惑星王の娘と子を為す。その子はエルフ族と龍人族を救う力のある勇者となる。もし子を為さなかったとき、龍人族最後の男は50年寿命を全うして死を迎え、龍人族とエルフ族は永遠に地上界から消滅するであろう。】


「…………っ!?」


オステリアが続けて解説をしてくれる。


「この金色の惑星。つまり太陽のことを指しているわ。その王と言うことは、レステール女王のことよ。」


「つまりこういうことか?俺はレステール女王の娘と、子供を作らなければ50才が寿命ってこと?」


コクリと頷くリリスとオステリア。


龍人族は1000年以上生きる種族だ。50年は短すぎる。


「それもあるが、龍人族とエルフ族が滅亡するということは、ワシらも消滅するということじゃ。」


「……!」


ここで、レステール女王はパチン!と指を鳴らして。光の粒子で出来たプレートを消滅させる。


そして、重々しく口を開く。


「強い命令口調になってしまったのは謝罪する。」


俺に向かって頭を下げるレステール女王。


「龍人族最後の男とは、私はてっきりリリス殿の養子である。ルードラのことだと思っていたのだ。」


ルードラとは、魔龍大戦時にリリスを守りつづけて最後に戦士した。リリスの養子である。血は繋がってはいないが、優れた魔法戦士であったとリリスから聞いている。


「ルードラ氏が死んだとき、私は絶望した。これでエルフ族も龍人族も終わりだと。」


確かに歴史のとおりだと、そのルードラが最後まで生きていた最後の龍人の男性だ。しかし、ここに来て俺がいる。


俺こそが最後の龍人の男だ。


(多分そうだよな。)


リリスは俺が何を思っているのかを理解したのか、補足した。


「うむ。ヤマトが最後の龍人の男で間違いない。魔龍大戦のとき、リューグーで生き残っている龍人を徹底調査したので間違いないのじゃ。」


リーランは納得したように声を漏らす。


「確かに、あのリューグーは龍人を保護するための施設。あれが調査して結論を出したのであれば、間違いなく龍人は一旦滅亡したのね。」


レステール女王は頷いた。


「しかし、ヤマト氏がこうしてここにいる。しかも見目美しい男だ。これなら娘も納得するだろう。何なら私が代わりたいくらいだ。」


(ん?今、サラっと何か変なこと言わなかった?)


女王は何事もなかったかのように、続ける。


「さらに死んだはずのリリス殿もいる。これはどういう訳なのか。」


「その件については、あとで話す。かなり長くなる話じゃ。」


レステール女王は、チラリと女神オステリアを見た。おそらく、何らかの予想はついているようだ。


「判った……。あとで必ず教えておくれ。」


オステリアは女王に語りかける。その顔は不満たらたらだ。


「それで、エルフの女王。あなたは預言の実行を望んでいる。それがヤマトと娘を結婚させたい理由ね?」


「そうだ。私の願いはエルフ族の繁栄。龍人族の最後の男が現れた。これは最後の希望なのだ。そのために私は3500年も生きながらえてきた。」


「その辺も聞きたい。オヌシ……何故そこまで生きていることが出来た?何故じゃ。」


すると、レステール女王は過去を語り出した。

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