第10話 今日、家族が増えました

♦♢♦♢リカオン視点が続く♦♢♦♢


マリーシアの目が淡く輝いている。


よくよく注意しないと気が付かないくらいの光だが。確かに光っている。


そして、その視線は地図に夢中のサールを視ていた。


(マリーシア……!)


それは、上位精神魔法【リーディングメモリー】だった。


相手の記憶を読み取るという禁忌魔法だ。


使用できる者は限られて、血筋・才能に依存する。その使い手は王国でも皆無に近い。マリーシアが使い手であることは王国にも隠してきた。この魔法は存在が知られれば、私利私欲の権力者達が求めるのは火を見るより明らかだろう。


知られるわけにはいかない。


俺が知る限り、マリーシアが使用したのは過去数回のみ。


その【リーディングメモリー】をマリーシアは発動していた。


強力な精神干渉魔法のため、使用したあとは発動者は気を失う。


(もう発動済だ。止められない……。こんな至近距離で何て魔法を使うんだ。マリーシア。そこまで、あの子のことを……。)


この魔法、一度発動してしまうと止められない。


あとは、サールが気がつかないことを祈るしかない。


経過したのは数秒……。しかし、それは何分かに感じられた。


サールは、まだ書類に目を通している。


(まだか、マリーシア!)


俺はマリーシアを見つめた。


すると、彼女は驚いたような表情を浮かべた後、強張った体が弛緩していく。


相手の記憶を読み切ったようだ。


マリーシアは、魔法の反動で今にも気を失いそうだ。


(マリーシア、もうちょっと頑張れ!何が見えたんだ!?)


俺がこっそり聞こうとすると。


突然、サールから声がかかる。


「おい。」


俺とマリーシアは、ビクッ!とする。


(バレたのか……終わりだ。くそ!)


しかし、サールは意外な発言をする。


「トイレはどこだ?借りたいのだが。」


「え……。あ、ああ。それなら、その廊下の奥ですよ。」


「うむ。借りるぞ。戻ってくるでにサインを済ませておけよ。」


「は、はい。」


そういうと、サールは席を外した。


(せ、千載一遇のチャンスだ。今しかない。)


「リカオン……。今しかないわ。反動で気を失いそうだけど……。記憶を送るわ。」


「何?お前……。」


「いいから……。もう話す力も残っていないの。見せたほうが早いわ。」


今度は、マリーシアは記憶伝達魔法【シンクロメモリー】を使うつもりのようだ。


これも上位魔法の一つである。


記憶の一部を相手に送れるという魔法。それを使うと言うのだ。


(うちの奥さんは……。優秀すぎる。)


上位精神魔法のオンパレードに目眩がする。


マリーシアはきっと緊急的に伝えないといけない”何か”を見たのだ。


俺はコクリと、黙ってうなづいた。


「…………いくわよ。」


すると、すぐに俺の頭の中に映像が流れる。マリーシアの魔法が発動したのだ。


しかし、送られてきた映像に息を飲む。


施設に入った子供達は、一応は生活が保障される。しかし、予算の少ない孤児院では最低限の食事と教育しか約束されていない。多くの子供達は成人まで生きられない。


(そんな……。)


しかし、サールの記憶を読むかぎり。そのような待遇は、どの孤児院も同じようだ。


王国の予算は潤沢だが、孤児に対しての予算は低いらしく。どこの孤児院もギリギリのラインで経営しているようだった。


優秀な子供は、貴族の家に引き取られることもあるようだが、非常に稀だ。もし引き取られても、体の良い奴隷生活が待っているだけだった。


生き地獄とも言えた。


(孤児を救済するため……、その建前は立派だが、これじゃあ形だけじゃないか。)


俺が呆然とした。


「あな……た……。」


「マリーシア!」


マリーシアはソファにもたれ掛かるように気絶してしまった。限界だったのだろう。


「…………。」


サールはまだトイレから帰ってきて居ない。


マリーシアは、俺の手を握っている。


「マリー……。」


俺は手元の契約書を見つめたまま、茫然とするしか無かった。


しばらくすると、サールが戻ってきた。そしてマリーシアの異変に気がつく。


「うん……?体調でも悪いのか?」


俺は焦ったように口を開く。


「あ!いえ……。ちょっと寝不足だったみたいで、眠ってしまいました。」


「……ふん。呑気なもんだ。これから田舎冒険者達は!何だ、まだサインしていないのか?早くしろ!」


「……は、はい。」


サールは、再び席に戻ると視線を地図に戻した。


もう時間が無い。どうしよう……。


夫婦で話し合う時間もない。流れはサインする方向だ。あええか会え合う意のウエア化


(どうする?どうする?)


俺は半分パニックになりつつあった。


横をみると、マリーシアは完全に意識を失っていた。こうなると数時間は目が覚めない。


どうする?どうする?どうする?


俺はマリーシアの手を強く握っていた。


するとサールが地図から目をあげた。


「おい!いい加減にしろ。まだサインしていないのか?」


「い、いえ……。」


サールは、声を荒げてきた。


「サインしないということは。罰則が待っているぞ?いいんだな?」


「……い、いえ。」 


相談すべきマリーシアは眠っている。俺しか判断出来ない。


……しかし、この子を手放すことは昨日夫婦で決めたことだ。


(決めた。サインしよう……。恨むいえ絵が意絵化をなよ、赤子よ……。)


俺は意を決して、契約のペンを手に取って魔力を込めた。


サインするぞ!もう終わりにしよう!


そのときだった。赤子が大声で泣き出したんだ。


「ふぇぇぇぇ!ふぇぇぇ!ふぇぇぇ!」


俺は、魔力を込めたペンを思わず止めてしまった。


「…………っ?マリーシア?」


そして、俺の手を握っているマリーシアの手に反応があった。赤子の声を聞いて強く握り返してきたのだ。


(意識がないはずのマリーシアの手が……、痛いくらい俺の手を握りしめている。)


(…………。)


俺は、眠っているマリーシアへ向かって口を開いた。


「うん、分かったよ。マリーシア……。伝わったよ。大丈夫。」


「…………。」


心なしか、マリーシアが微笑んだようにも見えた。


俺の迷いはなくなった。


俺は……俺はあの子の父親になる!命をかけて!そう決めた!


決意した途端。俺はペンを机においた。


サールはうんざりした表情で怒鳴りだした


「おい!いい加減に……。」


俺は立ち上がり。そして、高らかに宣言した。


「その子はうちの子だ!返してもらおう!」


そして、我が家に1人の息子が誕生した。

///////神崎視点に戻る///////


俺がてっきり追い出されるかと思っていた日。


意外にも何も無かった。


しかし、あの日から何かが変わった。どう変わったかと言うと……。


…………むっちゃ可愛がられてる。


いや、前から可愛がられてるけど……。ちょっと強くなってると言うか、何と言うか。


抱っこされる時間がやけに長い。


この家の女性のほうは、もう俺を片時も離さない。


常に俺を抱っこしている。


交互に抱っこされたり、撫でられたり。俺は人形か!?


むちゃくちゃ可愛がられている。もう凄いくらい。


(一体どうなってる?今日、追い出されるハズだったはずでは……?)


訳が判らない。え依存


とにかく、俺はこの二人……夫婦にもみくちゃにされてる。


※俺は、この二人を夫婦だと断定した。男と女なのは間違いないし多分合ってる。


しかし予想外だったな。しばらくこの家に居れそうだ。


はは……。俺の推測なんてアテにならんね。

さらに30日が経過。

とうとう、俺は目が見えるようになってきた。


(やった!見えるぞ!)


とうとう視力がついたので、俺はさっそくこの家の男女を見てみた。


この世界で初めてみる人間だ。


そして、驚いた。


(む、むちゃくちゃ美人さんと、イケメンがおる。)


地球で言うところの西欧人のような容姿をしている。そして、二人ともブロンドヘアーの美男美女だった。


年齢は、20代前半ってところかな。まだ若い夫婦だ。


旦那さんのほうは切れ長の目で、短い髪がカッコイイ。そして、引き締まった体が特徴的だ。マッチョって訳ではない、鍛え抜かれた剣士って感じだ。


奥さんのほうはタレ目で、腰まで届く長い髪が特徴的だ。スタイル抜群で、モデルのようだ。


二人とも背が高い。並んでいると圧倒される。


(こんな二人に可愛がられていたのか、俺。)


何だか、少しばかり気後れしてしまう。


視力を手に入れた俺は、異世界で見る新しい景色に興奮していた。大惨事の絵化過赤の


キッチン。ベッド。ソファ。明かり蝋燭。どれも地球で見たものと、まったく違う。

アクの秋アキ阿英上う幾栄繰り返すが

すべてが新鮮だった。


(た、楽しい!異世界!)


俺が充実した赤ん坊ライフを送っていると……。


転生して二か月ほど経過したときだった。


その日、俺はいつものように昼寝をしていた。赤ん坊は、ひどく疲れやすい。


そんな昼寝の中、突然に彼女が現れた。


女神オステリアが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る