ミスリル
K0ND0U
第1話 ゲーム開始通知
最初に空が裂けた。
梅雨も明けきらぬ六月の午後。重たい灰雲を押しのけるように、直径数キロに及ぶ黒い球体が突如として出現した。
「……え?」
最初に耳に届いたのは“音の無さ”だった。大気を震わせる轟音があるはずなのに、球体はまるで音の無い映像のように、そこに“置かれていた”。
球体の表面に幾何学模様のような光が浮かび上がる。続いて、それは空一面に投影され、誰もが見上げるしかない“告知”となった。
《この惑星の全知的生命体に告ぐ》
映像ではない。頭の中に直接流れ込んできたような感覚。正臣は思わず頭を抱えた。
《娯楽目的により、戦略型リアルゲームを開始する》
《本日より地球は「プレイフィールド」となる》
《対象年齢は十二歳以上。全対象者に「ミスリル」片を付与済み》
「ミスリル……?」
その言葉を呟いた瞬間、正臣の部屋の床が青白く光り、小さな金属球が出現した。直径はせいぜい五センチほど。どこか有機的な光沢を帯びていた。
《プレイヤーにルールを通知する》
《一、人類は各自「ミスリル」のイメージをもとに、武器を一度だけ形成できる》
《二、武器の重量は所有者の体重を上限とし、三つまで特殊能力を付与できる》
《三、形成後の変更は不可能とする》
《四、七日間の準備期間終了後、地球上に魔物が出現する》
《五、魔物は地球上のいかなる通常兵器も無効とする》
《六、「ミスリル」で形成された武器のみ、魔物に有効打を与える》
《七、魔物撃破時に獲得するポイントは、食料・特典との交換に使用可能》
《八、人類同士の戦闘は自由とする》
《九、ゲームは人類の総人口が百分の一を下回った時点で終了する》
正臣は黙ってそのすべてを聞いた。まるでオンラインゲームのイベント告知のようだった。滑稽にすら思えるが、街からは悲鳴や怒号が鳴り響き始めていた。
《補足:ゲームマスターである我々「観測者」は、各自に魔物部隊の操作権を持つ》
《魔物はプレイヤーの神話・伝承を参考に設計された存在である》
《撃破時に得られる「ソウル」「コア」「ポイント」は観測者の評価に反映される》
《各観測者は地上に半径300メートル以内の拠点を任意に一箇所設置できる》
正臣の部屋の中に、再び小さな振動が走る。テレビが勝手に点き、空中の紋章が映し出される。
《以上、ルールは地球の標準言語に翻訳済み。誤解による免責は受け付けない》
《それでは、楽しいゲームライフを》
最後の言葉だけが、妙にポップで軽かった。
正臣はゆっくりと視線を落とす。手のひらに乗ったミスリルは、まるで彼の内心を読んでいるかのように、ぬるく、温かい。
「これは……夢か?」
だが外から聞こえるのは、夢にしてはあまりにも生々しいサイレンと悲鳴。
彼は数秒ののち、ミスリルを握りしめ、深く息を吐いた。
「引きこもりの最終試練ってわけか。笑える」
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