一番愛されてるのは誰?

 これは遠い遠い国の話。

 大きな大きなお城のそ

「か〜が〜みぃ〜〜!!いる〜〜?」


「わぁっ!

 ……びっくりした〜っ!何すか、こんな夜更けに!

 てか、ここ一応隠し部屋っすよ!そんなでかい声出したら、ご家来にばれちゃいますよ!

 それに、鏡なんすからいるに決まってるじゃないっすか?

 夜中に足はやして出歩いてたらホラーっすよ。」


「ねえっ、鏡ぃ!この国で一番愛されてるのは誰?」


「お后様、酔ってます?……あっ、その手に持ってるの!

 それ、王様が大金払って買ったレアなワインじゃないっすか?

 まずいですって!

 あぁ!ラッパ飲みしないで!」


「いいから応えなさいよ!一番愛されてるのは誰?」


「そんなのわかんないっすよ。何すか、その曖昧な質問。

 愛されてるかどうかを比較するのなんて不可能っすよ。」


「そう!白雪姫よね!」


「私の話、聞いてます?」


「王様は白雪が可愛くてしょうがないんでしょうね!コソコソいちゃいちゃ内緒話なんかして!

 結婚したての頃は私にメロメロだったくせに……。

 釣った魚には興味も無いんでしょうよ!」


「とりあえず一回、その酒瓶、置きましょ?……ね?

 ちゃんと聞きますから。あぁぁ……ドレスに紫色のシミつけてぇ……」


 鏡はとにかくお后様を一回椅子に座らせると、改めて何があったかを尋ねました。

 お后様はグデングデンに酔っ払ったまま、呂律の回らない口調で話し始めます。


「……そりゃね、私は継母ですよ。世間からは白雪に冷たいだの何だの言われてますけど、それは王室の威厳を守るために必要な事なのよ。

 その上、結婚してみたら亭主は優しいだけのボンボンで、私がしっかりしなきゃ貴族に好き勝手やられちゃうし、仕方ないじゃない。」


「そうっすね。お后様はよくやってらっしゃると思いますよ。」


「それなのに!

 今日ね、政務の息抜きに窓から景色を眺めてたらね、王様がどっかの女とコソコソとお城から抜け出すのが見えたの!

 きっと城下に若い妾かなんか作って逢引きしてたんだわ!

 ああ、いやだ!汚らわしい!」


「いや、王様が二号さん囲うのは仕方なく無いっすか。王家の血筋の存続のために必要な仕事っすよね。

 それにいつもボンクラ、ボンクラって王様の事、サゲてるくせに。」


「あんたはどっちの味方なんだい!

 それに、それならちゃんとした側室を迎えればいいじゃない!それなら私だってちょっとくらい検討の余地はあるわよ。

 それをわざわざ私の目を盗んで、逢瀬を楽しむだなんて!

 もういや!私、離婚するわ!」


「待ってくださいって!

 第一、王族ってそんなに簡単に離婚とかできないでしょ?

 国民が聞いたら皆んな腰を抜かしますよ。

 落ちついください。」


「落ち着いてなんかいられますか!

 白雪だって最初の頃は、礼儀正しく私と付き合おうとしてくれてたのに、ここ何日か、私の顔を見るなり、ピューっと逃げてくのよ……ピューって!

 なによ!私の苦労も知らないで!私ばっかり悪者扱いされて!」


 そういうとお后様は酒瓶を煽りました。


「そのワインどっから出てきたんですか!最初のやつ取り上げましたよね?」


「ふふん。これが魔法よ。」


「何ドヤ顔してんすか。

 やめましょ?飲み過ぎですって。太りますよ?」


「さっきもさ……あの二人、なんかコソコソ話をしてるなぁって思って、近づいて声かけたら、ギクってした顔して急に話をやめて『なんでもないのよ、お母様』ですって!

 きっと私の悪口大会をしてたに違いないわ!

 優勝は白雪姫よ!

 ……何か最近、家来たちも妙によそよそしいし、目を合わそうとしてくれないし……。

 なんか私……自信、無くなっちゃった……。」


 お后様はすっかり意気消沈してしまいました。

 

 鏡はうなだれたお后様を、被害妄想がひどいなぁ、と不憫そうに眺めていましたが、その時ふと、あることに気がつきました。

 

「……あ〜。お后様、それ、多分違いますよ。

 これ言っちゃっていいのかなぁ……。

 でも、言わないと寝れなさそうだし……。

 それにしてもお后様、察し悪すぎ……。」


「何をぶつぶつお言いだい!

 言いたい事があるなら、はっきり言ったらどうだい!」


「そうですか?……まあ、仕方ないか。

 お后様、もうすぐ誕生日ですよね?覚えてます?」


「自分の誕生日を忘れるほどの歳じゃないわよ。」


「いや、そういう事ではなくて。

 誕生日、よそよそしい家族、秘密の相談。

 なんか思いつきません?」


「……何の事だい?」


「えぇ……?

 あ、そうか。お后様、昔からお友達いないからわからないか……。確かに今まで一度も無かったからなぁ……。」


「失礼だね!友人くらいいるわよ!」


「ごめんなさい、失言でした。

 えっとですね。世の中には、サプライズパーティーって物があるのはご存知ですよね?」


「知ってるわよ?それがどうしたの?」


「えぇ?……ここまで言われて気づかないの……?

 あのですね、多分、王様と白雪姫が主導で、サプライズの用意が進んでるんですよ。」


「そうなの?何のサプライズ?」


「なんでわかんないっすか?

 お后様の誕生日サプライズパーティーっすよ。」


「……えっ?」

 

「……えっ?」

 

 お后様は目が点になってしまいました。


「何、驚いてんすか?王妃さまの誕生日ですよ?

 盛大にやるに決まってるじゃないですか?」


「……だって、ここ数年、私の誕生日なんて、儀礼的で簡素な物だったじゃない。」


「仕方なかったんすよ。

 一昨年までは毎年、この時期に合わせて北の蛮族が遠征しにきてて、国をあげて対策してたじゃないですか。

 でも大規模な討伐のお陰で、去年から北の守りが落ち着いて、蛮族と不可侵条約が締結できた。

 ぽっかりと時間があいたから、たぶん王様か白雪姫が、今までできなかったお后様の誕生日を盛大にやろう、って言い出したんですよ。

 で、特別感を演出するために、サプライズにしようと計画……してたんでしょうけど、あなたって人は……。」


「えぇ……?うそぉ……?」


 お后様は困った表情を浮かべました。


「だってぇ……。私が怒ると、王様も白雪姫も家来たちも皆んな怖がるし……。

 私、いつもキツイ言い方しちゃうからぁ……みんなに煙たがられてると思っててぇ……。」


「自覚はあったんすね。」


「そ、それに、王様といた若い子はどうなのよ?浮気の現場じゃ無いの?」


「それなんすけど、お后様、女性の顔、見えました?王様ばっかり見てて女性の顔見てなかったんじゃ無いですか?」


「うっ……そ、それは……。」


「多分、仕立屋さんですよ。

 城下で一番の仕立屋さんなら、ソフィアさんじゃないですか?王室御用達、新進気鋭の若手デザイナーさんの。

 ソフィアさんに新しいドレスを依頼したか、王様が自分で女性モノを選ぶ自信が無かったからアドバイスが欲しくて呼び出したんすよ。

 でも、ソフィアさんがうろついてたら、お后様にバレちゃうでしょ?だからコソコソしてたんすよ。」


「えぇ……?うそだぁ?

 ウチの亭主、そんな気の使い方できるぅ?」


「ちょいちょい、王様に酷くないっすか?

 ……まあ、確かに王様本人の思いつきではないかもですけど、白雪姫あたりが入れ知恵したんじゃないですか?」


「えぇ……。でもぉ……。」


「……お后様、もうちょっと自信を持ってください。

 何で皆んなが、サプライズパーティーなんて企画してると思ってるんですか?

 お后様に喜んで欲しいからっすよ?

 お后様がこの国の為に粉骨砕身してくれてるのを、皆んな、わかってくれてますって。

 私も、そんなお后様だからついていくんですから。」


「……そうかな?……私、頑張ってるかな?」


「私には最高のお后様です。」


「……えへへぇ……。」


 まだ鼻提灯がついていましたが、お后様の顔にやっと笑顔が戻ってきました。


「……さぁ、そろそろ寝ないと、明日の朝、顔パンパンにムクんじゃいますよ。寝室まで歩けますか?」


「むりぃ……。」


 お后様はワインで完全に足をやられていました。


「しょうがないっすね。そこのソファで今日は寝てください。ほら……魔法で寝巻きに変えて……お水と毛布、持ってきましたしたから。

 ……たく。物を召喚する魔法、大変なんすよ?」


「ありがと〜……。」


 そういうと、お后様は毛布にくるまりました。

 そして、鏡を見つめました。

 

「さむい……抱きしめてぇ〜……。」


「だから腕ないですって。鏡から腕が生えてたらホラーっすよ。」


「喋る鏡も十分ホラー(笑。」


「私のアイデンティティ、全否定するのやめてください。

 ……お后様が眠るまで、安らぎの歌を歌ってあげますから……。しっかり毛布にくるまって、風邪ひかないようにしてくださいね。」


「うん……。おやすみ……。」


 鏡が歌をうたってあげると、お后様は随分落ち着いたようで、あっという間に静かな寝息を立て始めました。


 鏡はお后様が寝入ったのを確認すると、やっと落ち着いて自分も眠りにつく事ができました。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝、お后様はソファで目を覚ますと、何故自分がここで寝ているのかわからない様子でキョロキョロとしていました。

 お酒の力はとても怖いモノです。

 

 鏡は、戸惑っているお后様に説明しようとして、ふと、思いとどまりました。

 記憶が飛んだならサプライズの事も忘れてくれるだろうと思い、あえて真実を隠して伝えませんでした。


 お后様は怪訝そうな顔をしていましたが、公務の時間が迫っていることを告げると、急いそと自室に戻っていきました。


 こうして、お后様は少し気晴らしができ、数日後、無事、盛大なサプライズパーティーが開かれる事に………………。


 ◇ ◆ ◇


 これは遠い遠い国の話。

 大きなお

「か〜が〜みぃ〜〜!!いる〜〜?」


「わぁっ!

 ……びっくりした〜っ!何すか、こんな夜更けに!

 えっ?……お后様?何でまた酒持ってクダ巻いてるんですか?」


「また?何言ってんの?

 ねぇ!それよりも応えなさい!

 この国で一番愛されてるのは誰?」


「いやっ!何言ってんすか!

 昨日散々その話したじゃないですか!」


「あぁん?……鏡ぃ?アンタも私を蔑ろにするの……?

 ひどい……。私、こんなに頑張ってるのに……。」


「……あぁ!違います!違いますって!そんなに泣かないで!

 一番愛されてるのは、お后様ですから!

 えっ!……てか、本気で何にも覚えてないんすか?

 えっ?もしかして、これ……パーティーが終わるまで毎晩やるの?えっ?えっ?」


 その日からパーティーが終わるまで、鏡は毎日、寝不足の日々を送るハメになったのでした。


 めでたし、めでたし…………?

 

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