第11話 さすがですわね
緊張が張り詰めるラウンジの中で、ただひとり。 陰陽師、吉平は負けていなかった。なぜなら、彼の心には熱い思いがあったからだ。
「くっ……あいつの仇は、兄である俺が取る……!
俺は逃げねえ、弟のためにっ!
俺は勝つ、弟のために!わっはっはっは」
突然、明後日の方向に叫び出したその姿に、紅子はぽかんとしながら指をさした。
「……あれは?」
学長が苦笑まじりに答える。
「現代人図録タイプB、ブラコンです〜。人生かけてるから地雷は踏まない方がいいかもよ」
津玖流が補足した。
「弟がかっこいいと言ったから陰陽師を極め、弟が社長になると言うから司法試験受けて企業弁護士になった人です。人生貢いでます」
紅子はちょっとだけ毒気を抜かれたように、ため息をついた。
「弟中心主義ですのね……惜しいですわ。解釈さえ違わなければ、お友達になれましたのに」
そのまま吉平は覚悟を決めたように、ラウンジへずかずかと進み、柱にもたれて堂々とポーズを決めた。
「ふん、お嬢ちゃんと会話しなきゃいいんだろ?……おい、大学さんよぉ、ビジネスの話をしようや」
学長が眉をひそめる。
「ビジネスって、なによ〜」
「うちと共同研究だ。どうしても寄付にしろってんなら、それが条件だ」
津玖流が呆れたようにツッコミを入れる。
「吉平さーん、それ、偽装した搾取ですよー」
「うっせぇ! 稼げねえ大学は死ぬ、現実見ろや!」
紅子がパチンと扇を開き、静かに命じた。
「……理玖、熱い熱いコーヒーをポットで持ってきて!」
吉平は肩をすくめながら返す。
「かける気か?」
紅子はにっこりと微笑んだ。
「お客様にお飲み物をと、ほほほほほ」
「おい次期当主! 俺は、アイスコーヒーがいい」
理玖は小さくこてんと首を傾げ、とことことカウンターへ向かっていった。
紅子は吉平を見つめながら、低く呟いた。
「……やはり、陰陽師はふてぶてしさが違いますわね。さすがですわね」
「吉平さんは特にぼったくり陰陽師として有名ですし、弁護士だからハッタリうまいんですよ」
学長もいい足す。
「ハッタリとぼったくりが、月御門一族のお家芸です。インチキ占いと悪徳弁護で荒稼ぎしてます」
吉平は不敵に笑った。
「商売になるってことは、人様の役に立ってるってことなんだぜ」
その言葉と同時に、彼は紅子ではなく、一族全体へ向かって声を張った。
「お綺麗な理想に、がんじがらめになってんじゃねぇよ」
紅子は静かに応じた。 「理想の中に生きているだけですわ」
吉平は嘲るように言い放った。
「こんな田舎に閉じこもってか? 羽ばたこうぜ、芋虫から脱皮しろっての! うちがプロデュースしてやる。金を産むになる研究をさせてやる!」
そのとき、理玖がコトンとグラスをテーブルに置いた。
「……お飲み物」
吉平は立ち飲みのままグラスを取り、ひとくち飲んだ。
「……妙にうまくね?」
津玖流が誇らしげに笑った。
「氷室氷のコールドブレスコーヒーですよ」
理玖がすかさずデータを投下する。
「抽出率20%、TDS1.3%、香気グラニオール、リナロール」
「やめろ! まずくなる!」
紅子はため息をつきながら、ソファに腰を下ろした。 理玖の出してくれた飲み物を取る。
学長も続いて座る。
紅子は目線だけで促した。 「……お座りになれば?」
「けっこうだ」
背後から、津玖流の小声が飛んだ。
「……あのライダースーツ、ぴちぴちだからソファに座れないんです」
学長がくすっと笑って続けた。
「あいかわらず、カッコだけね〜。自分が一番がんじがらめじゃない」
津玖流が同意する。
「中二病が彼の個性ですから」
吉平が赤くなりながらも叫んだ。 けっこう表情にでるタイプらしい。
「聞こえてんぞコラァ! おい、話の続きだがな――!」
紅子はそっと目を伏せ、静かに立ち上がった。
その目は、どこか憐れみすら浮かべていた。
「陰陽師様」
彼女は、冷たい炎をその言葉に込めながら、言い放った。
「解釈違いのミゾは、決して埋まりませんの。 泥沼の戦いになる前に、お帰りくださいませ」
紅子の十二単が、静かに揺れる。
「目の前から解消違いは、消えろと申し上げておりますのよ?」
永久凍土の信念を、燃え盛る暗黒の炎に乗せて── そのひと言が、ラウンジの空気を再び凍てつかせるのだった。
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