第69話・決断! センガインよ永遠に④

 パンチ、キック、チョップ、エルボー。シュチ・ニクリーン様とジカビ・レッドは、写し鏡のように同じ技を同時に繰り出す。

「なかなかやるな、小童こわっぱめ」

「動けるじゃないか、ふんぞり返っているだけかと思ったぜ」

 シュチ・ニクリーン様が、ジカビ・レッドに手を伸ばす。が、ジカビ・レッドはその場で宙を一回転して、回避する。


「見くびるな! 真の力を見せてくれるわ!」

「望むところだ! かかってこい!」

 目にも止まらぬ接近戦がはじまった。手足は残像しか見えない、動かないのは頭と胴体だけだった。それが互いの体力をじわじわと削り落としていく。らちが明かない、そう判断したのはジカビ・レッドだった。


「くらえ! アブリ・ファイヤー!」


 シュチ・ニクリーン様が、紅蓮の炎に包まれた。が、マントで身を隠していたので、傷ひとつない。

「ジカビ・レッドよ、まだまだ青い。レッドを返上するがよい」

 シュチ・ニクリーン様が腕を掲げて、天を突く。まさか、とジカビ・レッドが恐れをなした。


「シュチ・ニクリーン様! いつの間に研修を!?」

「ダークインよ。センガインの研修プログラムを、誰が作ったと思っている。ほかでもない、シュチ・ニクリーンだ!」

 山下公園直上は、黒い雲に覆われた。暗雲には、イタチのように電弧が跳ねる。するとシュチ・ニクリーン様は、光の鍵盤に囲まれた。


 ジカビ・レッドが声を上げる。

「もしや……伝説のメルト・ショック!?」


 シュチ・ニクリーン様が鍵盤を叩いた。そのメロディーは、まるでレーザー光線。踊る電弧はそれに呼応して、ひとつにまとまりジカビ・レッドに降り注ぐ。


「くらえ、ライディーン!」

「そっちかあああああ!」


 ドン! ドン! ドーン! と、三発もの落雷がジカビ・レッドを狙い撃ち。

 思わず身を乗り出して、その場でぐっとこらえる私。

 とっさに身をひるがえし、すんでのところでかわすジカビ・レッド。

 安堵してしまう私。シュチ・ニクリーン様の攻撃で、ジカビ・レッドは敵なのに。


 一喜一憂する私の気配が、シュチ・ニクリーン様に隙を産んでしまった。その刹那、ジカビ・レッドのキックが炸裂。シュチ・ニクリーン様はまともに食らって、よろめいた。

「シュチ・ニクリーン様!」

「ダークインよ、見ておれと言ったはずだ」


 苦しみながらも、戦う姿勢のシュチ・ニクリーン様。手を突き出して、禍々しい瘴気を放つ刀を虚空に呼び出した。

「出でよ、クシ・レイピア!」

 ジカビ・レッドも呼応する。虚空が光り輝くと、剣が姿を現した。

「ジカビ・レッドよ、ケリをつけよう」

「望むところだ、シュチ・ニクリーン!」


 ふたりは同時に駆け出した。すれ違いざま、刀を薙ぎ払うシュチ・ニクリーン様。ジカビ・レッドは姿勢を一切崩さなかった。

 くっ! と、うめいたジカビ・レッド。

 崩れ落ちたのは、シュチ・ニクリーン様だった。


 シュチ・ニクリーン様の社章がパキッと割れた。シュチ・ニクリーン様の変身が解かれ、酒内林也に戻された。

 剣を光の中に消し去って、ジカビ・レッドは酒内社長に歩み寄る。

「お客さんだったのか、シュチ・ニクリーンというのは。それじゃあ、大統領も」

「そうとも、勘がいいな。世界中の権力者は、秘密結社センガインの支援者だ」


 そのとき、山下公園にバスが横付けされた。降り立ったのは、パシフィコ横浜にいたラマーズ。だが変身を解かれたシュチ・ニクリーン様に、ラマーズは望みを失った。

『ヒィィィィィィィィィィィィィィィ……』

「ラマーズよ、恐れるでない。シュチ・ニクリーンは倒された。だが秘密結社センガインは不滅だ!」


 酒内社長は立ち上がり、大さん橋に目を向ける。ラマーズは社長と大統領を担ぎ上げ、豪華客船へと一目散に走りだす。

 社長、何を考えているの? 私も戸惑いながら、山下公園を駆け抜けた。


 大さん橋のターミナルに入って、豪華客船に乗り込む社長とラマーズ。

 突然のことにうろたえている私は、大さん橋屋上のフリースペース、くじらのせなかで立ち尽くす。そのうち酒内社長がデッキに現れ、私に声をかけてきた。


「ダークイン! 秘密結社センガインは、さらに東のハワイを目指す! 仙界はハワイにあり、だ! 君も、私についてきてくれるか!?」


 そんな……急に言われても……。

 でもシュチ・ニクリーン様、酒内社長は本気だ。ラマーズも、ハワイでの再起に賭けている。

 センガインの仲間たちと過ごした日々が、走馬灯のように駆け巡る。


 山海せんがい商事の地下一階で、社長が自ら面接をした。採用を告げれた、その瞬間。地下一階は大深度地下まで降下して、秘密結社だと明かされた。

 私に相応しい仕事、私にしか出来ない仕事だと、確信した。

 ラマーズと受けた、数々の研修。ワン・フー博士が開発した、私専用のスーツ。社長、シュチ・ニクリーン様から賜った二つ名、ダークイン。


 そして社長、シュチ・ニクリーン様は、私に選択を迫っている。

 社長を選ぶか、ジカビ・レッドを選ぶのか。


 特殊スーツのために食べた蟹。ひとつひとつ解説してくださったインド料理。母に見直す機会を与えてくれた。肉じゃが、とても喜んでくれた。ブルーとの一件でも、とても配慮してくれた。コンカフェに来てくれたし、アキラくんのお世話では、いつもと違う顔を見せてくれた。


 社長と、シュチ・ニクリーン様と、ずっと一緒に働きたい。ダークインとして、シュチ・ニクリーン様のお役に立ちたい。


 私は、決めた。

 そして社章を、強く強く押し込んだ。

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