第2章 使い魔と才能
第1話
「さて」
気を取り直してこちらも作業をしなければならないのだが、既に回収をされた上に仕分けされた状態で保管されている。
『以前から思っていたのですが……』
「ん?」
『別に確認などせずにそのまま送られてもよろしいのではないですか?』
「ああ、それか」
それはここに配属されたばかりの頃の陸人も同じ事を質問した事があった。
「万が一違う人の元に届いてはトラブルの元になっちまうから念には念を入れて確認作業は必須なんだよ」
『そんな事は本当に稀なのでは?』
「稀でもあっちゃいけないんだよ。本当に」
そう言いながら陸人は表情が暗くなった。
正直、出来ればあまり思い出したくない。しかし、あの失敗を他者がしていたのを見たからこそこうしてこの作業の意義を感じる事が出来たと言っても過言ではない。
『えー、何かありましたか? 記憶にないのですが』
「まぁ、ミスをしたのは俺じゃないからな」
『そうなのですか?』
「ああ。簡単に言うと、彼女から恨み節たっぷりの供え物を全く別の人に渡しちまったって話なんだが……その渡しちまった相手がまた恋愛に疲れ果てた末にこっちに来ちまった人だったらしくてな」
『それは……何とも』
「そんな相手にそんな物を送ってみろ。傷口に塩を塗っている様なもんだろ?」
そのミスをした先輩はすぐさま受け取ってしまった人の元に行こうとしたのだが、元々精神的に弱っていたところにコレだ。
さらに追い詰める結果になってしまい、天界の治安維持を仕事とする部隊が出る程の騒ぎになってしまった。
『なるほど。あの一件はそれで』
「あ、それは知っていたんだな」
『ええ。ですが、この世界では何をしても亡くなる事は出来ませんからね』
「だな」
そうは言ってもこれだけの騒ぎが起きてしまったのも事実なので、その人も先輩だったのだが、今年の春に辞表が出ていた。
『それならばキッチリと確認しなければなりませんね』
「だろう?」
ただ、そんな事は空が言う通り本当に稀だ。だから、陸人は「実はあの一件はあの先輩が移動したいがためにワザとしたのではないか?」と怪しんでいる。
そもそも、これらを集めて仕分けをしているのは課長の使い魔たちだ。
本来は一匹ないし一頭の使い魔しか使役出来なのだが、課長はかなり珍しく複数の使い魔を使役する事が出来る。
課長が昇進する前は自分たちで集めるところからしていたらしく、日々残業に追われていた様だ。
多分、そういったところもこの課が不人気である一因だとは思うのだが、課長が昇進しておかげで今では随分と楽になったらしい。
ただ、実はこの課が不人気な理由は「地味な業務内容」だけでなく、そもそも「使い魔を使役出来る」という事が必須条件になっていた。
しかし、当たり前の様に条件とされている「使い魔を使役出来る」という事自体、極めて珍しい才能の一つだったのである。
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