第29話
そんな時、部屋にノック音が響く。
扉を開けるとそこには美波とのり子が立っていた。
しまった、十分後に食堂に来てと言われていたのにもう三十分も経っている。
「二人とも遅いです。せっかく出来立てのパウンドケーキを食べてもらいたかったのに、冷めてしまいますよ」
「悪かった、つい話に夢中になってしまってね。すぐに行くよ。のり子さんも来てもらってしまって申し訳ないです」
「いえ私は問題ございません、ご用意も済んでおりますので、宜しければ食堂までお願い致します」
僕達は二人の後を追い食堂へと向かう。
食堂の扉を開くと、パウンドケーキの甘い香りが鼻を掠めた。
「お前ら遅いぞ、俺達先に食べちゃってるぜ」
慎二、荒井、黒澤の三人はパウンドケーキが半分程無くなっている。
空いている四つの座席には、それぞれ手の付いていないパウンドケーキと空のティーカップが置かれていた。
のり子と美波は、僕達が来るまで手を付けないでいてくれたのだろう。
待たせてしまって本当に悪い事をした。
僕と倫太郎が隣同士で座り、僕の向かいに美波が座った。
パウンドケーキにはドライフルーツが入っており美味しそうだ。
僕達の着席を確認したのり子が、ティーポットを片手にこちらへと近づく。
空のティーカップに紅茶を注いでくれていたが、何かに気づき途中で止めてしまう。
その行動を不思議に思い、のり子を見上げる。
「申し訳ございません、二十分程ティーパックをポットに入れたままにしていたので、紅茶の味が濃くなってしまっているかもしれません。また新しいものを淹れ直します」
確かに左隣に座っている荒井が飲んでいる紅茶に比べれば、色が濃くなってはいるが、それは僕達が待たせてしまったのが原因だ。
「気にしないで下さい、元はと言えば僕達が遅れてきてしまったのが原因です。こちらこそすみませんでした。倫太郎さんもこのままで大丈夫ですよね」
右隣にいる倫太郎を見ると、彼は僕が入れて貰ったティーカップを凝視していた。
そして何か思いついた様に、席から立ちあがるとそのまま走って食堂を出て行ってしまった。
全員が唖然となる中、僕は慌てて彼の後を追いかける。
ホールに出ても倫太郎が何処にいるか分からなかったので、彼の名前を呼ぶ。
「海斗、こっちだよ」
声がした方に向かうと、そこは杏奈が殺害された洗面所であった。
倫太郎は洗面所から浴室の中を覗いている。
「慌ててどうしたんですか。急に居なくなるから吃驚しましたよ」
「杏奈の殺害の証拠を見つけたんだ」
「えっ、本当ですか。僕とのり子さんのやり取りが何か関係あったんですか」
浴室を覗いてきた倫太郎は振り返り僕を見る。
その顔は密室トリックを解いた時と同様にしたり顔をしていた。
「二人の会話がこの証拠に導いてくれたんだ。これで謎は解けた、やはり犯人はあの人しかいない」
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