3章22話:解放の方法
エルフの里へ滞在し、一ヶ月ほど経過しようとする時だ。
「よしフミー、今だ!」
「———」
鋭い掛け声と共にお祖母様は手を叩く。
それを合図に、フミーは『呼び寄せ』た。呼吸するくらい当たり前なような感覚で。
次の瞬間、先ほどまでなかったフミーのリュックがフミーの腕の中へと出現する。
無詠唱無呪文の召喚術、成功である。通算70回目くらいで慣れたものだった。完全にマスターしたと言っていいだろう。
「ふむ、これだけ成功するならあたいの教育も卒業だな」
お祖母様は腕を組み満足そうだ。
「えっ、でも無詠唱無呪文の召喚術以外はまだ全然……」
「いや、そっちもある程度できてるぞ。そりゃあたいレベルには程遠いが」
「そっかー」
お祖母様の言葉にフミーは安堵する。
「明日にでも槍渡してやるから、帰ってもいいぞ」
「……お祖母様は?」
「ん?」
「お祖母様は槍を浄化するためにエルフの里に来たんでしょ。なら——」
「フミー」
お祖母様はフミーを抱きしめる。そしてすぐに離れた。一瞬だけのことだ。
「悪いな」
「……」
何も言えやしなかった。
———
その夜、旅館の庭でルルーミャとクロシェットの二人は言葉を交わしていた。
「クロシェット、お前いつまでここにいるのだ? もう一ヶ月もいるだろ」
「わたしはフミーちゃんたちが行ったらいきます。ルルーミャ様こそ、あの子たちと一緒にここを出て行ったりはしないんですか?」
「出られるもんなら出たいぜ。——孫にあんな顔させちまったし」
後半は小さく呟くようにら言った。
「アヤートくんもネオンちゃんも強いでしょう。なら、どうにか突破できませんかね」
「……」
クロシェットは明るく提案するが、ルルーミャは何も言わない。
その沈黙の意味をクロシェットは掬い取る。
「わかりますよ。我が子を危険に晒したい母親はいませんからね」
「そんなんじゃないし」
「ならわたしを使ってください。ルルーミャ様のためなら命かけてもいいですよ」
「……命まではいらん。ただ、そうだな……ついてきてくれるか」
ルルーミャはクロシェットへ問いかける。答えがわかっていながらも確認をする。
ルルーミャの確信通り、クロシェットは頷く。
そして二人は旅館の庭を後にし里を出て、木々が並び立つ森林の中へ踏み入れるのだった。
月明かりに照らされてる道を二人は並んで歩く。
「で、何をするんでしょうか」
「頼み込むんだよ、森林に」
「頼む……」
ルルーミャの性格的に想像のつかない行いだった。
「大きな力の前には最終的にそれしかないだろ」
ルルーミャはそう言うと、しばらく歩いたところで立ち止まった。
「おい、森林! 聞こえてるだろ、いい加減しつこいぞ。そろそろいいだろここを出ても。また帰ってくるからさ」
「たの……む?」
クロシェットは首を傾げる。頼む態度とは思えないものであった。
「くっ」
近くの木々がざわめき、ルルーミャ目掛けて枝を伸ばしてくる。それを風魔法を駆使して切り落とそうとクロシェットが一歩前へ出るも、ルルーミャに手で制止される。そして、抵抗せず巻きつかれ捕まるルルーミャ。宙に吊らされながらルルーミャの細い体は軋む。
「ルルーミャ様っ……」
不安気に見つめるクロシェットにニカッとルルーミャは笑って見せた。その堂々たる態度こそが森林へ気に入られる所以なのかもしれない。
「マジで死にそうな時以外助けなくていいからな」
「死にそうなことされるんですか!?」
「さあな」
森林へ解放するように頼むなど、ルルーミャは初めてなことである。何が起こるかなど彼女自身も知り得ない。
「おい森林、どうすればいいんだ? 槍の浄化で世話になったしある程度のことは言うこと聞いてやってもいいぜ」
あくまで強気に、ルルーミャは呼びかける。
「おい、何とか言えよ。幻影使えばお喋りだってできるだろう? お?」
強気通り越してもはや煽っていた。
しかし、ルルーミャを宙に吊るしたまま森林からの反応はない。
「——! ルルーミャ様、誰か近づいてきます」
「なんだって?」
煽るルルーミャを他所目にエルフ族特有の耳の良さでクロシェットは近づく人物を感知した。
遠くの足音が、段々と近づいてくる。
「この足音は恐らく——」
「アタシだよ」
白い髪の少女が月光に照らされる。
———
「フミー。悪い子だな。良い子は寝る時間だぞ」
そう言ってお祖母様は小さく笑った。
現れたフミーを見ても、お祖母様は慌てる様子はなく、後ろめたさがないようだった。
「これは、どういう状況なの……?」
木の枝に絡まれているお祖母様、それを不安気に見てるクロシェット。それを交互に視線を向けるも理解し難い。
フミーは足跡を追ってここまで来ただけである。状況はわからなかった。
「ルルーミャ様、話していいでしょうか」
「別にいいぜ。話したくない理由があったわけでもないしな」
そうして、クロシェットに説明されてフミーはお祖母様の抱えている事情を知った。
森林地帯から出られないこと。
今は出られるように交渉していたということ。
フミーは指先に力が入り、思わなず握り拳を作った。
「違うよ、お祖母様。こっちが下手に、出る必要なんかないんだよ。——森林さん」
話を聞いて、フミーは腹立たしかった。
フミーのお祖母様を縛り付けるなど許せない。
そんな森林へフミーは呼びかける。
お祖母様へ絡んでいる木の枝を睨みつけながら。
「お祖母様を解放しなかったら、あなたを殺す。リーゼと父様とネオンを協力させて、アタシのとっておきを使えば、あなたなんかすぐ跡形もなくなるよ。焼かれて切り刻まれて」
そんな脅しが通用するのか定かではない。しかし反応はあった。響いたフミーの声に、森林は静寂を作ったのだ。フミーの言葉を咀嚼するように。
「……」
ヒリヒリとした空気が流れていることがわかる。クロシェットは心配そうにフミーを見つめ、お祖母様はただ目を細めていた。
それから突如——大きな風が吹き荒れる。一気に森林は体を揺らすようにざわめき始め、フミーを威嚇するようだった。
葉は舞い散り土埃は目に入りそうで、それでも、毅然とフミーは立つ。自分の意思は本気だと主張する。そのために一歩も引かない。
しかし森林も引かない。体が浮きそうなほどの暴風を浴びせてフミーの意志を折らんとしてくる。
このままでは埒が明かない。
「お祖母様、クロシェット、防御魔法ってできる? 360度防げるような」
「できるよ」「できるぜ」
「なら、それやってて」
お祖母様とクロシェットで顔を見合わせ首を傾げながらも、二人は防御魔法を展開した。
「よし……」
これで発動ができる。フミーは深く息を吸った。
「メヴィ・ソラシア」
白い光が当たりを支配する。
言葉だけの脅しではないと見せるため、『とっておき』を発動した。
フミーを中心とする半径100メートルほどのを切り刻む豪快な力だ。
代わりに自身もダメージを負うがそんなのは些細なこと。
「はぁ、はぁ……」
肩で息をしながら、辺りの木々は切り刻まれて開けた景色を眺める。
一瞬で変わった景色。まるで天の裁きのよう。
「ど、どうだ……」
「ふ、フミーちゃん、今のは……!?」
声を上擦らせ、ヒビ割れた防御魔法を解きクロシェットはフミーへ駆け寄る。
激しく吹き荒れていた風は次第に弱くなり、無風になった。降参を示すように。
「フミー」
絡みついていた木の枝が離れ自由となったお祖母様は名前をを呼びながらフミーへ近づいた。
「なんだよー、こんな凄い技持ってるなら言えよー!」
「あいたっ!」
「あっ、悪い」
お祖母様がフミーの肩を叩けば、メヴィ・ソラシアによって自傷したダメージに響く。
「フミーちゃん、わたし長く生きてるけどあんな魔法見たことがない。あれは一体何……?」
悪いものでも見たかのような顔で、クロシェットは尋ねてきた。
「あたいも見たことないな。光魔法の一種だろうけど」
お祖母様も回答を求めるようにフミーを見る。
「それは……」
迷って言い淀む。そして、決める。
「じゃあ、お祖母様とクロシェットは特別に教えてあげるよ。」
みんなを混乱させると思って言わなかった天使のことを話した。メヴィ・ソラシアを教えてもらった時のこと、槍に触れた時に白い世界でした彼女との会話を包み欠かさず。
静かな森林の中で、フミーの声が響く。
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