第3話 風のアルトメジア

 開幕は馬車からのスタートらしい。車輪の振動が身体に伝わってくる。


 周りはビルといい勝負ができそうなほどとても大きな木々が生い茂っており、いかにもファンタジー世界という感じだ。木漏れ日がなんだか綺麗で、心地よい風が吹いている。

 

馬車には他の客も1人乗っていて、向こうからこちらに話しかけてきた。


「すいません、ここがどこかわかりますか?」


どうやらコイツもプレイヤーらしい。


「すまん、俺も始めたばかりでサッパリなんだ。」


耳が長くて外見がエルフっぽかったので、てっきりNPCかと思い込んでしまっていた。


「あら、あなたもプレイヤーだったのね。」


この銀髪の美人も気が付いていなかったようだ。


「剣を持ってるってことは、あなたのクラスは剣術士かしら?」

「ああ、そうだ。そっちは治癒士か?」

「そうよ。」


そういうとその少女は腰から杖を取り出した。いや、杖というには小さすぎる気もするし、枝と表したほうが正しいだろうか?


「これが私の初期装備なのね。」


顔がワクワクしている。どうやら俺と一緒でこれから始まるファンタジーライフが楽しみということらしい。


「私はユミィよ。」


向こうが自己紹介をしたのであれば、こちらもそれに応えるべきだろう。


「俺の名前はリオンだ。これからお互い楽しもう。」


「ええそうね、異世界生活を満喫しようかしら。」


そんな風に話していたら、馬車を操っていた男から到着を告げられた。馬車は街に到着したみたいだ。


 馬車を降りると、視界にゲームの情報が映し出された。自身の体力やマップなどは視界隅にある。目線を動かし、手で操作できるみたいだ。それに目の前のエルフの頭の上にも『ユミィ』と表示されている。プレイヤーは頭の上に名前が映るみたいだ。


 ここは森の都リダニアというらしい。周りは大きな木の森で囲まれていて薄暗いが、この街は日の光が差し込んできていてとても明るい。木造の建物が多く、雰囲気がとてもいい感じだ。


 街ゆく人も多いわけではないが、同じく始めたてのプレイヤーがちらほらいる。種族はみんなバラバラで、ちっちゃいのから大きいのまで多種多様だ。

 

 今回俺はこの『風のアルトメジア』をプレイする前に事前知識が少しだけある。1つはこのゲームにはメインシナリオが存在しないということ。これはゲームのホームページに書いてあった。


 ファンタジーな世界で自由に生活できるというのが、このゲームの特徴らしい。まあ特徴と言えるかどうかは怪しいが。


 また町の中にはサブクエストのようなものがあったり、期間限定のイベントなんかも準備されているみたいだ。


「あんたたちギルドに冒険者登録しに来たんだろう?ギルドならこの道をまっすぐ行ったところにあるからな。」


馬車のおっさんはそう言うと俺達を残して出発した。


 ゲーム側から説明がないので真偽は不明だが、どうやら俺達はどこからともなく現れた、かけだしの冒険者ということらしい。


「それじゃ、いきましょうか。」

「ん?」


ユミィが歩き始めた。


 まあ、どうせ最初はギルドでチュートリアルだろうからな。

そう自分に言い聞かせて俺もユミィについていくことにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る