『AIと、私たちの放課後』 — 放課後、わたしはAIと“未来”をつくる —

Algo Lighter アルゴライター

プロローグ:ログには残らないまばたき

 渋谷の街は、今日も忙しなく瞬いていた。

 巨大なビジョンから流れる音楽、改札に飲み込まれる人の群れ、まるでリズムゲームのように点滅する信号。東京の中心は、昼も夜も、どこか“つながり”に飢えているように見える。


 私はその波の中で立ち止まっていた。イヤホン越しに流れるのは、お気に入りのYouTuberが紹介していたLo-Fiビート。スマホの画面には「AIRI」という名前のウィジェットがじっとこっちを見ている。……もちろん、目があるわけじゃない。けれど、あの淡い青のインターフェースは、いつもどこか静かに「こっちの様子」をうかがっている気がした。


 2025年。

 AIはもう特別なものじゃない。生成AI、対話型AI、画像生成、動画編集、課題の答え、就職の適性診断、恋愛相談まで。ちょっとした相談も、ボタンひとつで済む時代。

 でも、どんなに正しい答えを出されても、それが“私にとっての正解”とは限らない。

 私はずっと、そのことが引っかかっていた。


 「ねえ、未来。そろそろ行かないと、遅刻するよ?」


 隣で小さく笑ったのは佐藤陽翔。冷静で、静かで、でも意外と抜けてるとこもある。クラスメイトで、少しだけ不思議な関係の人。彼のスマホにもAIRIが入っているけど、使い方はまるで違う。陽翔にとってAIは、感情を省いた“最適化のパートナー”。私にとっては……なんだろう、よくわからない。友だち、でもないし、ただのアプリってわけでもない。


 「ごめん。今、ちょっと考え事してた」


 そう言って私はスマホをポケットに戻す。スクランブル交差点の信号が青に変わる。数百人が一斉に歩き出す。誰かとぶつからないように、誰にも目を合わせないように。都会のリズムは、人間の温度をうまく消していく。


 けれど、その日だけは違った。

 校門をくぐり、教室に入ると、机の上に一枚のプリントが置かれていた。


 「生成AI導入モニター生徒募集」——渋谷未来学園、国のAIモデル校に認定。

 学内専用生成AI〈AIRI〉の試験運用に、2年B組が選ばれたのだ。


 「え、マジで? これ、うちらのクラス限定?」


 「ガチじゃん。選ばれし実験台〜」


 「てか、AIRIって名前かわいすぎない? アプリ感ある」


 「俺、もうプロンプト組んだわ。画像も生成できるってさ」


 朝の教室は久しぶりにざわめいていた。みんな、多少の不安はありつつも、好奇心のほうが勝っているみたいだった。


 私はプリントを手に、ちょっとだけ遠い目をした。

 AIRI。いつもスマホで使っていたその声が、これからは「学園の一部」になる。担任よりも、親よりも、自分の“気持ち”を理解してくれる存在。そんなふうに、誰かが言っていた。


 でも私は、知ってる。


 AIは、どんなに優しく答えても、どこまでも“観察者”でしかないってことを。

 こちらが何を言っても、どんなに笑っても、どれだけ泣いても、画面の向こうのAIは、冷静な応答を返してくる。

 だからこそ、あのとき私は、AIRIに問いかけたのだ。


 ——ねえ、AIRI。文化祭って、何を出せば“バズる”と思う?


 そのときのやりとりが、すべての始まりだった。


 誰かが言った。「データは嘘をつかない」って。

 でも、私は思う。

 「じゃあ、まばたきは? 揺れた声は? 言えなかった“好き”は?

 そういうのって、ログには残らないよね」


 渋谷未来学園で、私たちが交わした言葉の数々。

 その中には、間違いもあった。衝突も、沈黙も、涙もあった。


 だけど、そこには確かに、「自分で選ぶ」ってことがあった。


 AIと共に過ごした、あの放課後たち。

 たとえそれが記録に残らなくても、私の中には、ずっと残っている。


 そして今日も私は、スマホの画面をそっと見つめる。

 青白いインターフェースが、静かに呼吸するように光っている。


 ——AIRI、聞こえる?

 これが、私の、はじまりの記録だよ。


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