スキル『絶対徴収』と『公平分配』で搾取社会に革命を起こす ~貧困育ちの俺は、異世界で義賊となり、仲間と共にベーシックインカムを実現する~

天照ラシスギ大御神

第1章 黎明の義賊 ~奪い、与えよ、この不条理な世界で~

第1話 スキル『絶対徴収』と『公平分配』

 チカチカと点滅する安物の蛍光灯の下、俺は冷え切ったコンビニ弁当をかき込んでいた。

 時刻は深夜2時。

 今日も今日とて、サービス残業と上司からのパワハラのフルコースだ。

 手取りは雀の涙ほどで、家賃と奨学金の返済を終えれば、手元にはほとんど何も残らない。

 壁には、かつて夢見たイラストレーターへの道を諦めた証である、埃をかぶったスケッチブックが立てかけてある。

 学費が払えなかったのだ。


「……なんで俺だけ、こんな人生なんだよ」


 独りごちた言葉は、狭いワンルームに虚しく響いた。

 努力が報われない。

 真面目に生きているだけなのに、どんどん貧しくなっていく。

 世の中は不公平だ。

 金持ちはさらに金持ちになり、貧乏人はさらに貧しくなる。

 そんな当たり前の現実に、心がすり減っていく。


 もう、疲れたな……。


 意識が遠のいていくのを感じた。

 ああ、これが過労死ってやつか。

 あっけないもんだな。

 どうせ死ぬなら、一度くらい、腹いっぱい美味いものでも食ってみたかった……。


 ――次に目を開けた時、俺は柔らかな草の上に寝ていた。

 視界には、どこまでも広がる青い空と、頬を撫でる優しい風。

 そして、目の前には、見たこともないほど美しい、しかし明らかに貧しい身なりの少女が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

 年の頃は……十五、六歳くらいだろうか。

 赤みがかった茶色の髪をポニーテールにして、大きな鳶色の瞳が俺を映している。


『……大丈夫ですか? あなた、空から……』


 空から?

 どういうことだ。

 混乱する俺の視界の端に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。

 まるでゲーム画面みたいに。


【ユニークスキル『絶対徴収』を獲得しました】

【ユニークスキル『公平分配』を獲得しました】


「……は? 徴収? 分配?」


 意味不明な単語に首を傾げた瞬間だった。

 近くの街道を通りかかった、見るからに悪そうな小太りの役人が、少女に気づいて近づいてきた。

 役人は少女を一瞥すると、唾棄するように言い放った。


「おい、そこの小娘! 今年の人頭税、まだ納めておらんようだな! さっさと出さんか!」


 少女はビクッと肩を震わせ、怯えたように後ずさる。


「ま、待ってください! 今年の作物は不作で、とても……」

「言い訳は聞かん! 払えぬのなら、その身で払ってもらうぞ! 売れば多少の金にはなるだろうからな、ヒヒヒ……」


 役人の下卑た笑い声と、少女の絶望に染まる顔。

 その光景を見た時、俺の中で何かが弾けた。

 転生前の、あの忌々しい記憶が蘇る。

 上司のパワハラ。顧客からの無理難題。搾取されるだけの毎日。

 ――許せない。

 理不尽な暴力で、弱い者から奪う行為が、どうしても許せなかった。

 そう強く思った瞬間、俺の意思に呼応するように、目の前のウィンドウが変化した!


【ユニークスキル『絶対徴収』を発動。対象:悪徳役人。徴収対象:金貨10枚。実行しますか? YES/NO】


 金貨10枚……それが妥当な金額なのか、それとも不当な要求なのか。

 今の俺には判断できない。

 だが、目の前の少女が怯えている。

 それだけで十分だった。


「……やってやる!」


 俺が心の中で叫ぶと同時に、【YES】の文字が強く光った。

 すると、役人の懐から、チャリン、という軽い音と共に数枚の金貨がひとりでに飛び出し、まるで意思があるかのように宙を舞い、俺の目の前で……消えた。

 いや、感覚的には、俺の懐に直接入ったような……そんな不思議な感触があった。


「な、なんだぁっ!? 俺の金がっ……!?」


 役人は自分の懐を探り、金貨が消えたことに気づいて目を剥く。

 周囲をキョロキョロと見回すが、原因が分からないようだ。


「き、貴様らか! 何か妖術でも使ったのか!」


 役人は俺たちを指差して喚いたが、その声には先程までの威圧感はない。

 むしろ、恐怖の色が濃く滲んでいる。


「お、覚えてろよ!」


 そう捨て台詞を吐くと、役人は慌ててその場から逃げ去っていった。

 あっけにとられていた少女が、ハッと我に返って俺を見た。

 その大きな瞳には、驚きと、それから……微かな期待のようなものが浮かんでいる。


「あ、あの……お兄さん、今のは……?」

「い、いや……俺にもよく分からないんだ」


 正直に答えるしかない。

 本当に、何が何だか。

 でも、一つだけ確かなことがある。

 俺は、目の前の少女を助けることができた。

 その事実が、なぜか少しだけ、胸を温かくした。


 少女は、しばらく俺の顔をじっと見つめていたが、やがて、ふわりと花が咲くような笑顔を見せた。


「ありがとう、お兄さん! すごい魔法だね! あたし、フィア! フィア・クレセント!」

「俺は……タクマ。サイトウ・タクマだ」


 フィア、と名乗った少女の屈託のない笑顔に、俺は知らず知らずのうちに張り詰めていた緊張が解けていくのを感じた。

 異世界。謎のスキル。

 状況は最悪かもしれないが、それでも。


「なあ、フィア。ここは一体どこなんだ? それから……俺は、これからどうすればいいんだろうな」


 俺の問いに、フィアは少し困ったような顔をしたが、すぐににっこりと笑って答えた。


「ここは、王都アステリアのすぐ外れだよ。行くあてがないなら、あたしが住んでる『ダストヘイム』に来る?」


 ダストヘイム。

 その不穏な響きの地名に、俺は一抹の不安を覚えながらも、他に選択肢はなかった。

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