第五章 thoss who canot lloavve tha worlld
5-1
九月七日。
あの後、夏希の兄を名乗る人物から夏希の家へ呼び出され、冬香と秋穂に宛てた遺書と思われる手紙を二人は受け取った。
夏希の兄は言った。「だいたい、夏希のことは気づいてたんだ」と。
夏希の兄は夏希のことについて気がついていたらしい。
「夏希と二人は親密な関係なのかい?」
冬香と秋穂は「違う」と答えようとしたが、夏希が二人にこの手紙を遺している以上、仲間だという疑いは晴れないであろうことは分かっていた。だから『友達だけれどそこまで仲が良いわけでもない、このことについても何も知らない』と答えようとした。
しかし、二人の答えを聞く前に兄が「今度の土曜日、またここへ来てよ」と言った。
そして今日がその約束の日。
まだまだ夏は続く。だがしかし、蝉の声はもうそこになかった。
「あの人……信用できると思う?」
ふと秋穂が言った。
二人は夏希の家の前で立ち止まり、平凡な苗字の表札とチャイムと睨めっこをしていた。
「信用も何も……でも夏希のお兄さんだったら、夏希のことを何か知ってるだろうし……話をする価値はあるんじゃないかな」
手紙を受け取った直後、二人は真っ先にその手紙を読んだ。その内容は、二人にとっては中々衝撃的なものであった。
化け物部の正体と、本当の夏希。主にその二つがその手紙を書かれてあった。
――あれが全部嘘だったなんて。
確かに冬香は夏希のことを不審に思っていた。冬香には夏希が自殺願望を抱く理由が全く分からなかったし、そもそも、本当に死にたがっているようには見えなかった。
だが、冬香は夏希のことを侮っていた。
あの飄々とした立ち振る舞いも、まるでたまたま化け物部に来たら春がいたという話も、冬香たちを待って毎日公民館に来ていたことも、『人による』という答え方も、自殺願望を抱いた理由を誰にも話していないということも、理由を話さないというルールを作ったのが春だということも、『自分の人生を人に預けてる人なんていない』という言葉も全て――虚言だった。
そもそも、じゃあ小学生の頃、一緒に過ごしていたあの夏希は本当の夏希なのか……そう考えだすと何も信じられなくなってしまいそうだ。
冬香はそんなことを考えながら、夏希の家のチャイムを鳴らした。
『はーい……ああ、ちょっと待ってね』
そう、まだあまり聞き覚えのない声が答えた。
しばらく経つと玄関から夏希の兄が出てくる。
雰囲気こそ似てないが、顔つき自体は夏希とそこそこ似ている。高い高身長と夏希と同じようにスポーツをしているのか、身体つきもいい好青年だった。
そのまま兄に誘導されて、二人は夏希の家へお邪魔することになった。
夏希の家は……とても普通だった。その普通さが生活感を出している。冬香の家にみんなで遊びに行ったことはあったが、夏希の家は初めてだったので二人は新鮮味を感じた。
「あ、どうぞ座って」
二人はリビングにあったソファに腰かけ、兄は向かい合わせになるように同じ柄のソファにまた腰かけた。
ご丁寧にテーブルにはお菓子と紅茶が用意されていて、兄は「ようこそ待ち構えていました」と言わんばかりの顔でこちらを見てくる。
冬香は紅茶を一口飲んだ。淹れてからしばらく経っているのか、とてもぬるかった。
「ごめんね、こんな暑い日に……しかも休みの日なのに呼び出しちゃって。僕は夏希の兄、湊(みなと)です。今は大学の二回生。宜しくね」
兄――湊はそう言って軽く会釈した。口では謝っていたが、悪気は感じない。
――やっぱり、私たちが知っている夏希とお兄さんはイメージが違うなぁ。夏希よりもクールで冷静な感じ……家での夏希はどんなキャラだったのだろうか。
「――冬香です」
「秋穂です」
二人も続けて自己紹介をして、軽く頭を下げる。
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