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「春のこと、大切にしてるんだ」
「そりゃあ、もちろん友達だから。でも、それは秋穂と冬香も一緒だよ。みんな大切な友達だもん」
――一緒……なのかな。
友達としてはきっと一緒だ。春も冬香も秋穂も。
だがそれは別に、春には救世主のように思っていた節があったのかもしれない。
その後日、冬香が興味深いことを夏希に言った。
「……やっぱり春がいなくなってから、ちょっとメンタル的にもダメージが来てるというか――実は、多分最期に二人で春と話したの――私なんだ」
そう、冬香が言った。
――『自殺は狂気か否か』……。それが、春の最期か。
夏希は化け物部としてみんなと関わり始めてからは、少しずつ元気を取り戻していた。
もちろん、学校でのいじめは変わらない。
学校を辞めればいいと思われることはない。夏希はいじめられていることを春にしか話さなかったからだ。
進学校に通い、大学進学も当たり前の状況下にある春は、『学校を辞める』という選択肢を考えつかなかった。
夏希も別にそれでよかった。夏希自身、学校を辞めるつもりはなかったから。
あの状況であれば、自分がやめれば他の人物がターゲットになるだけであることも、夏希は気づいていた。
化け物部は夏希にとっても居心地がいい場所であった。この場所にいると、まるで小学校時代に戻ったような気分になれた。
だからそんな場所を用意してくれた春にはとても感謝していた。
夏希は自身の携帯電話を確認する。
『あたしもいるから』
というメッセージを秋穂と小さな喧嘩に発展しそうな時に送っていた。メッセージに既読がつくことは、もうないが。
あの時、夏希はなんとなく気が付いていたのかもしれない。感づいていたのかもしれない。
春が限界を迎えていることに。
――こんなメッセージ、送ったことなかったのに。なんで送ったんだろう。
振り返ると、自分でもよく分からない気持ちになった。
――でも、あたしの声が届かなかったか。
最期に春に届いたのは冬香の声だった。
「あぁ、それで責任感じてる――みたいな感じかー。でもさ、確かにびっくりしたけど、あの時点でもう春の意志は固まってたんじゃないかな? もしかして自分の言葉がーって思っちゃってるのかもしれないけどさ――そんな、自分の人生を人に全て預けてる人なんていないと思うよー。だから冬香が春を殺したんじゃないよ」
――あたしは、春を一つの拠り所にして今を生きていた。春に人生を預けていた。
偶然バレてしまったが、唯一素の自分でいられるのは春の前だけだった。
化け物部は恐らく春があたしのために創ってくれたのもの。もし、春が化け物部のせいで更に心を痛めてああいう選択をしてしまったのだとしたら――春の殺したのはあたしだ。
なんだか久しぶりに、水の香りを嗅ぎたいと感じた。
九月一日。
――明日は始業式か。ああ、学校行きたくないな。
朝、冬香に向けてメールを打った。
『明日またみんなで集まろう! こっちはお昼ないんだけど、多分そっちもそうだよね? どっか食べに行こうよー』
そして夏希は迷うことなく明日の朝に届くよう設定して時間指定をして送信ボタンを押す。
――冬香の声は届いたのに、あたしの声は春に届かなかった。冬香はあの時、春の質問になんて答えたのだろう。本当に、春は冬香に最期の希望を託していたのか。
何にせよ、もう答えを確かめる術はない。
また、夏希は分かっていた。冬香にあんなメールを送ったところで意味がない。かえって冬香を苦しめる一因になってしまうだろう、ということを。冬香が責任を感じてしまうかもしれないことを。
これは嫉妬からくるものだ。
夏希は春に送ったメールに、既読がつくことを望んでいた。
声が届くことを望んでいた。
だが、実際に届いたのは冬香だった。
だからちょっとした嫌がらせ的なものだ。
後、二人に向けて一通の手紙を用意した。
もう隠し通す必要はなくなったから、これまで起きたことや本当の夏希をそこに書いた。
二人は驚いてくれるだろうか。
――久々の水の匂いだ。
夏希はすぐそばにある川を眺めた。
それと同時に小学生の頃、みんなでプールに行ったことを思い出した。とても楽しかった記憶が蘇る。
プールのことだけじゃない、みんなで放課後遊んだことや、タイムカプセル的なものを埋めたことも――。
――タイムカプセル? そういえば、そんなのあったな。
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