第三章 a warld full of liaarss

3-1

 あれからどう帰ったのか、冬香は思い出せなかった。

 気が付けば家にいた。

 後に秋穂から聞いたところ、冬香たちは帰る時に警察に見つかり、中にいた公民館の職員の人と共に事情を聞かれたが、『春とは古い友達だが、自分たちはたまたまそこにいただけだ』と答えた。今後の計画のためらしい。

 三人が出ていくとき、既に春の姿はなかった。

 遺された手紙について、せめて春の親にも見てもらおうと警察に持っていき、公民館の中で拾った。とだけ言ったが、

『春さんの親は君たちを信用していない。知らない子だと言っていた。もう葬儀も終わったし、親御さんもお仕事で忙しいため、その手紙は受け取れない。とのことです』

 と言われた。

 あまりにも残酷な話だ。

 親は娘の遺書を拒否し、その本人はもう肉体すらこの世にない。

 冬香たちが遊んでいた身体は燃えたのだ。

 今でも、冬香は春と交わした言葉が忘れられない。あの春の質問に違う答えを返していたら、春は生きていたのではないかと思うと――冬香が、春を殺したのではないかと行く当てのない罪悪感が冬香を襲う。

 それでも冬香は毎日学校へ登校した。秋穂も毎日学校へ来ていたし、恐らく夏希も毎日行っていた。

 しかし、三人はあれ以来集まっていない。会議室は元々春がお金を出して借りていたようで、春がいなくなった今、もうあの会議室は使えないようだった。

 そしてそれから、一か月と少しがたった。

 七月二十二日。

 今日は高校の一学期の終業式であった。みんなこれから来る夏休みに興奮して、教室はやけに騒がしかった。冬香と秋穂はそれに置いて行かれているようだ。このクラスメイトたちの中でも噂くらいは流れているかもしれないが、少し離れた他校の生徒のことなど知りもしないのだから。

「冬香。今日、久々にあそこに行かない? もう警察もいないと思うし」

 久しぶりに秋穂の声を聞いた。

 まさか秋穂から誘われるなんて思いもしていなかった冬香はとても驚く。

 心なしか、前よりも優しげのある声だった。それほどまでに冬香は疲れているように見えるのかもしれない。

「……うん、いいよ」

 一瞬断るかどうか悩んだが、このまま落ち込んだままでも仕方ない、と思い冬香は承諾し、放課後、二人は再びあの公民館を訪れた。

 冬香は久々にこの建物を来て、最初に春をつけていたことを思い出した。入口に入る時、おそらく春の血が流れていたであろう場所を踏みつけた。

 その場所は既に前と変わらぬ姿になっていた。

 ――ここ、めっちゃ清掃したんだな。……冬香が思えることはそれくらいだった。

 会議室までたどり着いたが、鍵が閉まっていて入ることはできなかった。鍵を借りることもできないため、窓から覗くことしかできない。

 あの時から変わらぬ簡素な会議室。しかし、電気がついておらず薄暗い上、冬香たちが使っていた痕跡はなくなっている。

「あれ、夏希だ」

 秋穂は驚いた顔をしながら前方を指さした。

 約束などはしていなかったが、秋穂は階段から夏希の姿を見た。見慣れたポニーテールが今日も揺れている。

 夏希は冬香たちがいることに気が付くと、ドタドタと大きな音を立てながら階段を駆け上る。

「あっ! 二人やっと来てくれたぁー」

 ――やっと?

 夏希は冬香たちの元へ駆け寄り、すごく待ってたんだよー。と困憊した様子を見せる。

 そのしぐさは随分と大げさだった。

「七月に入って、この公民館もいつも通りに戻ったから、二人来ないかなって毎日来てたんだ」

 ――電車で毎日?

 夏希が通っているR高校はここからは少し遠い。電車で学校からは三駅、家はまたここから一駅分離れている。

 夏希は行動力がすごい。一度決めたら本当にそれを成し遂げてしまう力がある。

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