第一章:始まりの音
空は鈍い灰色だった。
教室のガラス窓に当たる風の音が、遠い波のように聞こえる。
澪はひとり、教室の隅に立っている。制服のスカートは少し擦れて、膝の位置で揺れている。
その視線は、机の上に置かれた白い封筒に向けられていた。
(モノローグ)
開けたら、戻れない。
でも、開けなかったら……もう、ずっと。
何も、変わらないまま。
封筒の端を指でなぞる。
彼女は静かに椅子に腰を下ろし、教室に残された音を聞く――
誰かの足音の残響、鉛筆が転がる音、そして……記憶の中の、声。
(回想)
「澪、お前が黙ってるとさ、空気が凍るんだよ」
「でも、それが心地いいって思った。……変かな?」
(別の声)
「誰かに頼ればよかったのに。あんた、一人で背負いすぎ」
「それでも歩いたんでしょ? それだけで、すごいよ」
澪の目が静かに揺れる。
目を閉じると、舞台の奥から柔らかい照明が一筋差し込む。
それはまるで――彼女が記憶の中に沈み込む準備をしているかのようだった。
(モノローグ)
過去なんて、思い出さなくていいって言うけど。
私には、まだ終わってない。
……だから、始める。
(彼女はゆっくりと立ち上がり、観客に向き直る。)
(はっきりと)
私は、語る。
これは――
わたしがここにいた証。
(静かな音楽。光が満ち、場面が転換する。)
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