夢幻の温泉

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旅の始まり

卓也は、男子高校生としての平凡な日々を送っていたが、彼には一つの夢があった。


それは、貯めたバイト代を使っての貧乏旅行。

目的地は、昔ながらの露天風呂を巡ることだ。

卓也はお風呂が大好きで、特に自然に囲まれた露天風呂にこだわっていた。


ある日、卓也はついに計画を立てる。


彼は電車を使って、各地の露天風呂を巡る旅に出ることにした。


最初の目的地は、地元の山奥にある

「静寂の湯」という名の露天風呂だった。


周囲には美しい自然が広がっており

湯船に浸かると心がほぐれ、日々のストレスが消えていく。


次に訪れたのは「風の露天」


ここは、地元の人々に愛されている場所で

卓也は年配のおばあさんから


「ここは特別な湯だ」と聞かされ、期待が膨らむ。


しかし、湯に浸かると、周囲の人々が何やらささやき合っているのが耳に入る。


内容は「最近、変なことが起きている」というものだった。

卓也は興味を持ち、思わず耳を傾ける。


彼は、旅行中に出会った常連客から

奇妙な噂を聞くことになる。


「ここに来ると、時々不思議なことが起きるんだ。

特に、夜の露天に入ると…」

その客は言った。

卓也はその話を聞いて、ますます興味が引かれるが、同時に不気味さも感じた。


次の露天風呂は「夢の湯」

ここでは、卓也は一人の年配の男性と出会う。

彼は卓也に、「この湯には、昔からの伝説がある」と語り始める。

「昔、ここで入浴中に行方不明になった人がいるんだ。

その人は、今もこの湯にいると言われている。」

卓也はその話を聞いて、ますます興味が引かれるが、同時に不気味さも感じた。


男性は続けて言った。

「この湯には、行方不明になった人の思いが宿っている。

湯に浸かることで、その人たちが何を感じていたか、少しだけ体験できるんだ。」


卓也はその言葉にぞっとした。

何かが彼の背筋を冷やした。

湯の中で何かがうごめいているような気がしてならなかった。

しかし、好奇心が勝り、彼はさらに尋ねた。


「それで、どうなったんですか?」

卓也は恐る恐る尋ねた。


男性は目を細め、語り続けた。

私は、ここで彼女の声を聞いた…

助けてと…

それから彼女の姿が見えた。

彼女は私に手を伸ばしていた。


卓也は心臓が高鳴り、思考が混乱した。

まさか、そんなことが本当に起こるのか?

湯の中で目を閉じると、彼は自分の過去に思いを馳せた。

失った友人の顔が脳裏に浮かぶ。


「それからどうなったんですか?」

卓也はさらに尋ねた。

男性は深いため息をつき、言葉を続けた。

彼女は消えてしまった……


その瞬間、卓也の目の前で湯の水面が波打ち、彼の心に不安が広がった。


湯の底から何かが浮かんできそうな気配を感じ、彼は急に気分が悪くなった。

「この湯には何かある…」


男性は続けて言った。

「だから、ここで過去を思い出すのは危険なんだ。

時には、思い出したくないものが現れることもあるから。」

卓也は一瞬、男性の言葉が真実であることを実感した。

彼は急いで湯から出る決意をしたが、足が動かない。

何かが彼を引き留めているかのようだった。


そのとき、耳元で再びささやく声が聞こえた。

「こっちにおいで…」


恐怖が彼を包み込み、卓也は必死に湯から飛び出した。


脱衣所へと駆け込み、息を切らしながら振り返ると、男の姿はもう消えていた。


湯の中で何が起きていたのか、真実を知ることはできなかったが、彼は確信した。


夢の湯には、何か恐ろしい秘密が潜んでいるのだと。

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