神の祝福を受けたら 魔物に村を滅びされて 竜と戦うハメになった話

ギズモ

プロローグ

 世界は、はじめ“音”だった。


 風もなく、光もなく、ただ一つ、響く律動。

 それはやがて“理”を生み、“情”を宿し、“意”を持って形となった。


 そして、四柱の神が現れた。

 ナギツネ──理を司る者。

 ユキナリ──情を育む者。

 タカユキ──意志を導く者。

 そして、ナギリ──終焉と無を見つめる者。


 彼らは互いに力を重ね、ひとつの箱庭を創った。

 限りなく広く、しかし掌の中にあるような、優しく閉ざされた世界。

 そこには“秩序”と“流れ”と“余白”が、バランスよく息づいていた。


 やがて、私たち──精霊が降り立った。

 風に乗り、山に宿り、水を抱き、この箱庭に“色”を与えた。

 私たちは祝福のように、無垢に、この地に憩った。


 そのうち、神々の創った小さな生き物に、私たちは宿った。

 猿に似た、言葉を持たぬ存在。

 しかし彼らは、私たちと同じ“好奇心”を持っていた。


 精霊と生物が交わり、やがて“人間”が生まれた。

 言葉を持ち、火を操り、歌い、祈る者たち。

 それはとても、美しい奇跡だった。


 けれど──奇跡には、影が落ちる。


 四柱の一角、ナギリが変わってしまった。

 “無”を受け入れるはずの彼は、“虚無”に心を侵されていった。

 すべての終わりは安らぎではなく、“否定”へと至ると。

 そして、ある日を境に、彼は“神”ではなく“災厄”となった。


 彼が世界に落としたのが、悪神竜シグレ

 神の力を持ちながら、神の心を持たぬ存在。

 理解不能な理性と、我々とは異なる価値観を持ち、

 ただ破壊のみを愉しむ、“黒き翼”。


 それは、ただの怪物ではなかった。

 世界に“終焉の種”を蒔く、神の爪痕だった。


 私たちは戦った。

 まだ力を保っていた精霊たち、人間と手を取り合って。

 多くの仲間が命を削り戦い、そして敗れた……

 私たちは力の多くを失い“妖精”となった。


 だが──敵わなかった。


 シグレは封じられず、ただ“遠ざける”ことしかできなかった。

 それ以来、私たちは姿を消し、森の奥へと隠れた。


 神々もまた、沈黙した。

 残された神々は悪神を“抑える”ために尽力し、

 現世への干渉を、ほとんど行わなくなった。


 ただ一つ、時折、“龍の姿”で現れるその存在が、

 人々の間に“竜神信仰”として語り継がれていくこととなった。


 ……そうして今、世界は“眠り”の中にある。


 忘れられた神々。

 沈黙する妖精。

 目覚めぬ悪神竜。


 だが、確かに、胎動は始まっている。


 霧が、風を覆う日。

 雨が、大地を濁す日。

 その時、“黒き翼”は再び舞い降りる。


 私は──

 かつて精霊だったものとして。

 今はただのさざ波のような存在として。

 それでも、あなたに語らずにはいられなかった。


 ……忘れないで。

 まだ幼いあなたには分からないかもしれないけれど。

 “その力”は、神の祝福であり、神の試練でもあるから。


 ──どうか、あなたが。

 この世界を、未来へ繋ぐ者となりますように。

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