転生先が平成オタク全盛期の秋葉原だった件

@bakushimaru

プロローグ 「異世界賢者、秋葉原に立つ」

天は割れ、大地は沈み、塔は崩れた。

世界の終わりを、フェル=エルカディアは見ていた。


“叡智”を極めた者として、この崩壊を止める手段はなかった。

魔術は失われ、世界の理そのものが崩れていく。


ならばせめて、知識だけでも残さねばならない。


選んだのは──転写術。

魂を別の世界線へと“書き換える”異端の魔法。成功する保証などない。


それでも彼は、最期にこう記した。


「もし次の世界が、“観測可能な魔法”に満ちているのならば……私は、そこに在りたい」


意識が断ち切られ、フェルは、暗闇へと落ちた──

そして次の瞬間、まばゆい光と、音の洪水に包まれた。


「……ここは……どこだ……?」


目を開けたフェル──いや、すでにその名は忘れ去られつつある彼は、

見たこともない光景の中に立っていた。


巨大な看板に並ぶ記号、無数の人々が手元の小さな石板をいじりながら歩いている。

高く伸びた塔には「アニメDVD発売中!」の文字。

どこからか聞こえる「ご主人さま、お帰りなさいませー!」という謎の詠唱。


………………


しばらく黙って観察したあと、彼はつぶやいた。


「……ここは、魔術都市か……?」


情報が空気に溶けている。意味不明な記号が、空間全体に浮遊している。

魔術とも技術ともつかぬ何かが、この場所を支配している。


時は、2006年。

場所は、秋葉原。


異世界の終末からやってきた賢者は、文明の熱狂と電波に包まれたこの街で、

第二の人生を歩みはじめる。


だがこの街は、ただの商業地ではなかった。

都市伝説と、異界の裂け目と、そしてかつての“観測者”たちの残響が、ここには眠っている──

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