■第四章:再会のテーブル ~着替えた君はまるで~
ふたたび席へと戻ったまなは、完全に別人だった。
白地にすみれ模様のジャンパースカート。肩から垂れるケープは、胸元のブローチでふんわりと留められ、ボンネットから覗く髪はさっきまでの跳ね具合が嘘のようにしっとりと落ち着いていた。
「えっ、誰……」「似合いすぎでは……」
席にいた他のロリィタたちが思わず声を漏らす。
その中を、まなはうつむきながら、蘭の隣へと腰かけた。
「……着せられました」
「お似合いでしたわ」
「ちょっと、お姫さまっぽいって言われた。てか言われたかった。いや違う、なんでもない」
先ほどまでトングを両手に網を支配していた“肉王”の面影は消え、そこには、たどたどしく手元のグラスを両手で持つ、しおらしいクラシカルロリィタが座っていた。
「……なんか、すごい……すごいけど、違う意味でめっちゃ緊張するんだけど……」
「では、緊張を和らげる意味でも――そろそろ、戦場に戻りませんか?」
蘭が言いながら指差したのは、網の上で静かに焼けつつある最後の霜降りカルビだった。極上のサシが美しく、ふわりと脂が浮かび始めたその一枚。
「これは……早い者勝ちだね……?」
「いえ、半分こ。そうご提案しようと思っておりました」
「……ほんと?」
「ええ。お洋服のお礼もかねて」
蘭はナイフとフォークを手に取り、まるでケーキを分けるように肉を切り分けた。
「……いただきます」
「ええ。ご一緒に」
ふたりで同時に、口に運ぶ。焼きたてのカルビは柔らかく、舌の上でとろけて消える。
その瞬間――まなは思った。
(この人の味、かもしれない)
というか、蘭の顔がやたら近い。さっきまで対戦相手だったその瞳が、静かにまなを見つめている。
「まなさん。……よろしければ、来月もまた」
「え、来月もって、え、あ、うん、うん!」
「では、次は……私が焼いて差し上げます」
「そ、それはありがたいけど! 焼かれる側としては全力で信頼したいけど!」
「ふふ」
肉はなくなり、皿も空になり、グラスには氷が残された。
それでもテーブルの間には、香ばしい余韻と、ひとつの気持ちが残った。
まなはそっと、自分の袖を見た。
さっきまで焦げ臭かったピンクの甘ロリは控え室にある。今身にまとっているのは、借り物の、でも不思議としっくりくるクラシカル。
(なんだろ……この服、なんかあったかい)
蘭は、まなの手をそっと取った。
「では、ご一緒に帰りましょうか」
「……うん」
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