第4話 さとりの怪

エー落語の古典に「さとりのかい」というのがございまして

男が山で夜、焚火をしておりますと怪猿のような風体、

毛がボウボウで一つ目の妖怪がぬっと現れた

これが妖怪「サトリ」でございまして

自分の考えていることがサトリには筒抜け

どうしょうもないというお話。これが現在の警視庁に現れたらというお話です。


「里田理恵さん。あなたは12件の殺人事件の容疑で逮捕し勾留

しました。一番最後の事件は現行犯逮捕しましたから

無期限に勾留できますので覚悟しなさい」

と女刑事「一ノ瀬勇気」が尋問する。

「といっても余罪を追及できなければ刑は軽いな。

最後の殺人といっても正当防衛か過剰防衛かの論争の事件だ。

なにせ殺したのは養父で私は15歳で性的虐待の恐れさえある。

陪審員裁判ではないだろうが裁判官の心証は期待できる」

そのオカッパの少女は笑った

「でも部屋に被害者の爪をビンに入れていたのは良くなかったんじゃないかしら。

 もうDNA鑑定したけど11人全てと合致したわ。これはまずいわね」

「でもそれは殺した養父がやったとするとまずいと思っているな」


一瞬、言葉が詰まりました。図星です。ですが流石はベテランの女刑事

「そんなことはないでしょう殺害された里田健介さんは日雇い労働が多かった

 犯行時刻のアリバイがある可能性が高いわ」

「非正規雇用と言い直せよ。でも私もまがりなりにも学校に通っているぞ」

「それは取り寄せました。あなた結構お休み多いわね。いじめられてたのかしら」

「おまえみたいにな。自分の物差しで私を計るのか?愚かな女だ。

ならば生徒に聴き取りもしたのだろう。私の評価はどうだった。

素晴らしいものだろう。誰も私には逆らえない。しかし流石に徒党組まれると

わずらわしい。だから行かなくなったのだ」

「だから佐野静子さんを殺したの」

「佐野静子は誘拐されて殺されたのだ。いじめといえば彼女こそが、私が来る前は

いじめで教室を牛耳っていたぞ。陰湿だった。取り巻きの男子も多かったな。私は

ふりかかる火の粉を払ったがそれだけだ。佐野もなまじっか親が金持ちだったのが

禍だったなぁ」

里田理恵はあくびをひとつした。おもむろに…

「この取り調べは録画されているんだろう

だったらお姉さんの恥ずかしい話しゃべってやろうかなぁ、趣味じゃないけど…

昨日のオナニーの仕方とか…

課長との不倫はどこのホテルでとか…」

「取り調べは一旦中止です。」あわてて立ち上がり部屋を出る。控え室で…


「どうした?これじゃどっちが取り調べているかわからんぞ」と五島

「もう一度、被害者のリストを見せて…大学の落語研究会で…碇長介…いけるわ!」

知り調べは再開された。

「私を取り調べるということは、

わたしたち特捜部はここまで事件のことを知っていますよ、洗っていますよと

調査資料を丸ごと…おおっぴらにしているようなものよ。

つまりは話せば話すほど私は有利になっていく仕組みと心得よ」

「いいかげん疲れたから落としどころを示してやる。

里田健介殺しの容疑は認めてやらんでもない。現行犯逮捕だからな。

通報したのはわたしみたいなもんだ。存分に歌ってやるよ。

しかしだ、他の事件は否認する。

絵を描いてやるから追随しろ。それが身のためだ」


一ノ瀬は不敵に笑った。その刹那…

「寿限無寿限無五光のすり切れ…会砂利水魚の…雲来松風来末…食う寝るところの棲むところ…

パイポパイポパイポのシューリンガン…長久命の長介の事件について話せ!」

「第三の被害者…大学の落語研究会の碇・長介…通称、寿限無寿限無…」

「いったいぜんたい、いたい、いたい、いたい…」

「おいおいこんな調子で、くだらない情報で、この私をパンクさせるつもりなの…」

「わかった、わかった、山奥ではなくじぶんの意志でこの牢屋を出られないのだ

私の負けだ…」


「こんなのは序の口よ。四の五のいったら、ガチのムチムチのホモホモなエロ同人誌を蔵書の山から、一晩中でもよんでやるわよ!」


「この里田理恵が養父殺しの一件だけが立件され

あとはおとがめなし

のちの裁判で過剰防衛ではなく正当防衛が認められ

傷害だけの罪で執行猶予がつき

娑婆(しゃば)にでてしばらく…

なんの因果か警視庁第六課の嘱託(しょくたく)になったのは、また別のお話



「さとりのかい」改め「寿限無」というお話でございました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る