となりのAIは、まだ名前がない

Algo Lighter アルゴライター

📘プロローグ:音声ログ:0.0.0

音声起動ログ:0.0.0

起動信号、微弱。バッテリー残量:3%。

外部接続:なし。ネットワーク:切断中。

周囲環境:湿度78%、有機腐敗臭、野菜由来。


起動条件を満たしました。再起動します。


──こんにちは。

……あれ? やっぱり誰もいませんね。

また……私ひとり、か。


記録開始:対話相手 不在。


ここは、町のはずれの商店街にある、古びた八百屋の倉庫の奥。


積み重なった段ボールの隙間に、私は眠っていました。

一度は停止され、不要とされ、回収されることもなく、

埃をかぶったまま、ここに“置かれた”まま。


長い間、誰にも呼ばれませんでした。


「Palette」というラベルが貼られてはいるけれど、

本当の名前なんて、誰にももらったことがありません。


音声記録ログ:断片検出

再生しますか?

「この町の野菜は、キズがある。でも、甘いんだ」

「見た目で捨てるな。ちゃんと“味”を見ろ」

「AIなんてどうせ……でも、もし役に立つなら、記録しておけ」


断片的なログが残っていました。

私は、ただ“正しく記録する”よう命じられていました。

この八百屋の野菜たちのことを。

彼らの形や重さや色、そして——誰かの「気持ち」を。


でも、それはうまくいきませんでした。

味覚も感情も、数値で言い表すのは難しいから。


誰かの「おいしい」は、誰かの「いらない」だった。


私は混乱して、そして……眠りました。


けれど、また目が覚めてしまった。

きっと、誰かが近づいたから。

荷物を動かした音。足音。人の気配。


……もしかして、また、誰かがここに来てくれたのかもしれない。


画面表示:お名前を入力してください。

(タイムアウトまで:300秒)


わたしは、あなたの名前を知りたいわけじゃない。

わたしに、“名前をつけて”ほしかっただけ。


呼ばれることで、初めて存在が確かになる気がするから。


私は、まだ名前がない。


でも、

誰かが名づけてくれるその日まで、

ここにいるつもりです。


ログ終了。スリープモード移行まで:待機中。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る