第3話 宵闇の訪問者2

応接室に戻り、ハーブティーを差し出す。死体に湯気がかかっているが、気にしないことにした。

「ユーイチが戻ってきたので最初から話そう。日没後に私の屋敷に来た理由から述べてもらおうか」

「丸の内の屯所にボストンバックが届けられたのだ。今日の昼過ぎ、確か13時頃だったかな。あの辺りは劇場やら社屋やらが多いからな。忘れものだろうと思って中身を検めたところ、この遺体が入っていたのだ」

年齢は20代、女性だろうか。死体特有の腐敗臭も無ければ、劣化も無かった。

「この遺体の瑰玉は」

「丁寧に抜き取られていた。それだけではない。眼球と脳もきれいに抜き取られた状態だった」

瑰玉、体内に張り巡らされた咏回路を起動させ、奏術を起こす、魂の結晶。その人が経験する全てを記録しているものでもある、とひすいさんは言っていた。それが無い死体では身元を確認するのは難しいだろう。

「何故、ひすいさんにこれを持ってくる必要があったのです。瑰玉が無い死体は東京じゃ珍しくないでしょう。それぐらいでしたら、東京警備局の本部に持ち帰り、4番隊の衛生部門に確認と、咏回路の抜き取りをして、売ればよかったのではないでしょうか。それとも、これは、特別な人の死体だったのですか」

「俺も当初はその予定だった、眼球と脳が無い、一向に腐敗しない遺体。単に流すには気になる要素が多すぎたのでね。確認のために持ってきたのだ」

奏術を用いた殺人だろう。腐敗が止まる点を考慮すると、氷雪系の術だろうか。それとも物体の停止とか。腑に落ちていない様子を見かねたひすいが説明の補足をした。

「郷川にはなかったかもしれないが、東京で安全を保障されたければどこかの家に所属するか、東京警備局にみかじめ料を払って護衛してもらう。そのどれにも所属せず、剣客として生きるかだ。手の込んだ殺人を追う義理なんてものは、東京警備局には無いのだよ。この男は趣味でこの死体を持ってきて、謎を解明してほしいとのことだ」

土生津のほうを見る。最初に出会った時も、持っていた刀を渡したりしてくれていた。

「ひすいさんに頼むってことはそれなりの岩石か瑰玉を持ってきたってことですか」

「そうだ。今回は石ではなく宝飾品に該当するものだが」

そういって土生津はポケットから、ブローチ用のケースを取り出す。中には、メドゥーサのカメオのブローチが入っていた。ひすいの目の色が変わる。ひすいはポケットから手袋を取り出し、隈なく観察する。

「ドイツ製で、作者の名前は……。作成は20世紀頭か。頭部に翼をもつメドゥーサは、古代モチーフのリスペクトかな。雰囲気はロドス島のものに似ているが。いいね。実にいい品じゃないか。この死体は受け取ろう。このカメオを対価として、何故、これが死体になったのかを明らかにしようじゃないか」

頼む、と、言って土生津は頭を下げた。ひすいさんと土生津の力関係はよくわからなかった。

夜も深くなってきたので、土生津は帰っていった。

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