第3話 冒険者ギルド

 翌日。昼の15時ごろに起床したクレイは、起きたてのぼさぼさの髪のまま、服装だけを冒険者稼業用に整えて冒険者ギルドに向かった。


 冒険者ギルド。騎士団という結界内部の組織が外部を見捨てている現状で、それに代わり外部の人間たちを守る存在がこの冒険者ギルドである。

 竜と魔物によって支配された危険な外部で、自ら戦う力も持たぬ下民たち。彼らからの依頼を冒険者ギルドは集め、冒険者ギルドに所属する冒険者に仲介するのだ。

 依頼の種類は多岐にわたるが、街道を移動する際の護衛や、魔物の討伐、必要素材の採集などなど。とにかく危険な外部を生き抜くために雇われるのが冒険者という職業だ。


 冒険者はその実力や冒険者ギルドへの貢献度によっていくつかにランク分けされている。下からF、E、D、C、B、A、Sだ。

 クレイはCランクなのでド真ん中あたり。バートは現在Aランクなのでかなり上位。そして、現在倒竜会によって確保されているビルズはBランク。彼も十分上位の冒険者に位置づけられている。


 クレイが訪れたのは帝都の下町東区にある冒険者ギルド東区支部。冒険者ギルドの本部は南にあり、東区にある冒険者ギルドはその支部である。


 目の前に鎮座する巨大な建物。外であっても聞こえてくる中の喧騒を感じながら、クレイは冒険者ギルドの中に入る。

 中には数十人の冒険者があれやこれやと話しており、外で聞いていた声より更に騒がしい。

 そんな喧騒をクレイは心地よく感じながら、冒険者ギルドの受付にまで足を運ぶ。


「ニコラちゃん。おはよう」

「あ、クレイさん。おはようって、もうお昼ですよ?」


 冒険者ギルドの受付嬢であるニコラにクレイが話し掛ける。


「今日はこれから依頼ですか?」

「うんにゃ。ちょっと支部長に用があってさ。話し通してきてくんない?」

「わかりました。そろそろ依頼こなさないと、また支部長にどやされますよ?」

「うへぇ。それは勘弁」


 露骨に嫌そうな顔を浮かべるクレイにニコラは笑いながら、受付の奥に引っ込んでいった。支部長の元へ行ったのだろう。


 しばらく待つこと数分。受付嬢のニコラが戻ってくる。


「支部長空いてるって。『今からならギリ空いてる。運がよかったな馬鹿野郎』だそうです」

「は。クソ暇なくせにムカつく野郎だな」

「それ絶対支部長の前では言わないでくださいね」

「わかってるよ。ありがとねニコラちゃ~ん」


 クレイはニコラにひらひらと手を振りながら冒険者ギルドの中に入って行き、行き慣れた支部長の部屋に向かう。


 部屋の前でコンコンとノックし、部屋主の返事を待つ。


「入れ」


 野太い男性の声。その声に従い、クレイは扉を開けて部屋の中に入る。

 中に待っていたのは、筋骨隆々のスキンヘッドのおっさんだった。


 エイデン。冒険者ギルド帝都東区支部の支部長である。


「おひさ」

「おひさじゃねえんだよ。ちゃんと冒険者活動しやがれ馬鹿たれが」


 開口一番に飛んできたのは、冒険者家業をサボり気味なクレイへの罵倒であった。


「いきなりそれですかい支部長。ボチボチやってるつもりなんですけどね」


 クレイは頭を掻きながらエイデンの座るソファの正面に座る。


「んで? 今日はどっちの用事だ」

「裏」

「なるほどな。じゃああいつの件か」


 話している内容からわかる通り、エイデンはクレイの裏稼業を知っている。倒竜会に関係する人物だという事もだ。しかし、クレイが倒竜会のボスであることまでは知らない。エイデンの認識としては倒竜会との窓口程度だ。


「奴はどうなる予定だ?」

「今日引き受けた依頼に失敗し、魔物のエサ」

「チッ…………。奴は腐ってもBランクだぞ?」

「まあまあ。茶菓子でも食べて落ち着きなって」


 クレイはそう言って、持参した菓子折りをエイデンの前に突き出す。昨日、アデラに用意してもらった賄賂付きの菓子折りである。


 エイデンは菓子折りを受け取ると、さっそく中を確認し始めた。大量の茶菓子の裏側に敷き詰められた大量の紙幣を目にし、エイデンは少し目を丸くする。


「…………ずいぶん多いな」

「まあね。茶菓子すきだったろ?」

「ああ。随分と羽振りがいいじゃねえか」

「それだけ支部長に世話になってるって感謝のしるしだよ。遠慮なく受け取ってくれ」

「そうか。なら遠慮なくいただこう」


 エイデンは少しだけ冷汗をかきながらも冷静を装い菓子折りを貰い受ける。

 今回賄賂を貰っているのはエイデンの方だ。本来であれば立場はエイデンの方が上である。

 だが、その額が大きすぎる。これは恐らく、それだけ倒竜会という組織は稼いでいるんだという隠されたメッセージなのだ。

 確かに冒険者ギルドと倒竜会が潰し合えば勝つのは冒険者ギルドであろう。だが、一個人として倒竜会を見た時、やり合いたくないと思わせるほどの金額であったのだ。

 敵に回せばかなりの痛手は覚悟せねばならない。エイデン自身も無事では済まない可能性が高い。それを感じさせるほどの額だったのだ。


「紙幣なんて結界の外じゃ手に入らない代物のはずなんだがな」


 エイデンがぼそりと呟くも、クレイは意味ありげにほほ笑むだけ。教えるつもりは無いという事だ。


「まあどうでもいいか」


 深く詮索はすまいとエイデンは話題を変える。


「そういえばここ最近、若い冒険者の失踪が相次いでる。何か情報を掴んでいたりしないか?」

「いや、初耳だな。被害は?」

「ここ一ヶ月で10人余りだ」


 何とも微妙な数である。それくらいであれば偶然で片付けられる程度の数な気もするが。


「その程度だったら日常茶飯事じゃねえか?」

「数だけ見ればそうなんだが、そいつら全員、とある場所の魔物討伐依頼を受けた時に失踪してるんだよ」

「そのとある場所って?」

「『翡翠ひすいの洞窟』だよ」


 翡翠の洞窟。帝都下町の東門から出て1時間程度の場所にある、超がつくほど初心者向けの洞窟だ。駆け出しの冒険者でも簡単に討伐できる魔物しか生息しておらず、冒険者連中からは癒しの狩り場なんて言われたりしている、FランクからEランク程度の低ランクの冒険者用の狩り場である。


「そりゃおかしいな。あそこだったらぺーぺーの冒険者でも楽勝だってのに」

「そうなんだよ。だから異常事態なんだ」


 考え得るとしたら人為的なものなのか、それとも魔物の生態系の突然変異的な何かなのか。とにかく何か理由がないとあそこで失踪者が頻出する説明がつかないのは確かだ。


「少なくとも俺は何も掴んでいないな。今日初めて聞いたくらいだ」

「そうか。お前らなら何か掴んでるかもなんて思っていたんだがな。――――それとも、お前らが関与しているか?」

「心外だな。冒険者はお得意様だぞ。何かない限りは手を出したりせん」

「そりゃそうだな。悪かった」


 冒険者という職業は結界の外部の中では稼げる職業だ。その為、冒険者たちはよく倒竜会の系列店で金を落としてくれるのだ。何か特別な理由でもなければ冒険者というのはお得意様なのだ。

 まあ、その何かがあった場合は容赦はしない。現在倒竜会によって拘束され、殺される予定のビルズがいい反例だ。


「近々、翡翠の洞窟の調査隊を組織するつもりだ。クレイも参加しろ」

「え?なんで?」

「なんでもこうもない! お前そろそろ依頼こなさないと貢献度不足でDランクに落とされるぞ!」

「あ~、その依頼を受ければ助かるって事?」

「そういう事だ。そろそろ冒険者ギルドの為に働け」


 面倒だがこれは断れない。せっかくCまで上げたランクを落とされればたまらない。


「わかったよ…………。ったく」

「全くはこちらのセリフだドアホウ」

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