出会いと始まり

マジで江戸じゃんね?

 江戸……たしかジャポニカの国の昔の時代とかは聞いたことがある。

正直、私は すごく、すごーく東の国ってことぐらいしか知らない。行きたいなーって思ったことが二回ぐらいあるかないかだし……島国だから文化?の発展が独特だとか?

でも、私は全然知らない土地だし国だし。正直そんな名前の国?街?時代?港?があったとか?なんにも知らないじゃんね!

「なるほどな。俺が思う以上にお前は相当遠い異国から来たのだな」

お茶をすする青年。私はその隣で桜餅を食べる。膝の上には青年から買って貰った山盛りのお団子とよもぎ餅。

「はむっ!ん〜!おひぃ〜!ねぇ、さくらもち?は分かったけれど、この、ダンゴ?って何で出来てるの?」

「もち米だ」

「モチゴメ?それをどうするの?どうしたらこんなに不思議な食感になるの?…ぁむぁむ…うまぁ…」

(ちょーうまい…ほっぺがとろけそう!)

うすきねでつく」

「ウス?キネ?ツク?」

分からない言葉に首を傾げてしまう。

「蒸して柔らかくなった米を限界まですり潰して小さく切って丸めた物だ」

「むし……やわ…コメ?すり潰す……?」

青年は大きくため息をついて、お茶をすすってから一言。

「そんな事より、女。お前さんは牛のように食うな」

「カッチーン!いくらウチがいっぱい食べるにしても、言っていいことと悪いことがあるじゃんね!」

「ふむ、この言い方は悪いのか。お前の国も道徳はあるのだな」

「全世界共通で悪じゃんね!はぁ…あむ」

「…」

「ま、ちょっとづつエドを学んでくわ!教えてね?センセ〜」

と隣の青年に私は上目遣いをしてウィンクをする。青年は鳥肌を立ててお茶をすする。

「女……本気で俺に教わろうとしてたのか?」

「うちに知れる、何も無いなら作れって、言ったのはセンセーでしょ?だから責任とって」

「先生?……俺の事か。女、言っておくが俺は師と言えるほど…」

「あと!私の名前はアリス!女って名前じゃないわ!」

「あ、あり、ありすぅ?……女」

「三文字を諦めないで!」

「女、とりあえずお前は……どうするか…」

と深く考え込むセンセー。最後の桜餅を飲み込んで周りを見る。

(エドか…活気溢れてるなぁ)

歩く人々、店で話す人々、雑踏と人混み。店に並ぶもの全てが目新しくて、全てに興味を惹かれてしまう。周りの目は大分痛い気がするが……それよりも色々なものが気になって楽しくなってくる。

綺麗な音に引かれて近づけば、クラゲの様なガラスの鈴があった。

「コレ綺麗…!」


あ、この紙のクルクル回ってるやつなんだろう。


なんかいい香り!コレ、うなぎかしら?美味しそう〜!


あぁ!なんか揚げ物だ!これも美味しそー!あ、隣…団子って書いてある…美味しそー!


ん?このきらきらしたやつ何かしら?髪飾り?へー!綺麗!


と、私は次々と屋台の物を見て行った。

その頃、センセーは「はっ」として、周りを見ると隣には誰も居なかった。

センセーは慌ててお茶を飲みきってアリスを探しに江戸の町を走った。

「わぁ、綺麗…」

小さい桶の中を泳ぐ赤い小さな魚。

「コレ、なんて言う魚なのかな…?」

「なんだぁ?金魚も知らねぇのか?」

そう言って私の顔を覗いてきたのは、肌が焼けた色黒の少年だった。

「きんぎょ?このお魚はそんな名前なの?へぇ〜可愛いじゃんね!」

「じゃんね?お前さん、変わった髪の色だなぁ…着物も変なの。あ、もし、この辺の事を聞きたいなら金か……」

「あ、物知りな君にこれあげる」

ポンと、私はリポップキャンディを出して目の前の少年に渡す。

「その飴どっから出した?!いや…金魚教えただけでオイラ何もしてない…」

「え〜、きんぎょ教えたくれただけで嬉しいんだけど…あ、あの、ガラス出できた、クラゲみたいなのって一体何?」

「クラゲ?」

「こう……丸い…なんか垂れてる…」

「風鈴か?」

「ふぅ、ふうり?」

「ふ、う、り、ん」

「ふ、う、り、ん」

「そ。てか、風鈴も知らないで生きてきたのかよ…マジで何も知らないのな…」

「そう。今エドの事、勉強してるの。だから、教えてくれたお礼」

私はリポップキャンディを少年に渡す。

「んじゃ、そういう事にしといてやる。あ、でも、伊織にぃちゃんが優しさでものあげてると、欲しいって人しか集まらなくなるからものをあげすぎるなって言ってた。姉ちゃんも、気おつけ的な」

「ふーん」

(悲しい事思ってる人が居るのね…)

「じゃあな!飴ありがとう!」

「うん」

嬉しそうに走っていく少年を見送って周りを見て気づいた。

「あれ、ここ何処じゃんね?」

周りを見渡して、ここにお店はない。所か人気もない。狭い路地があるだけだ。

(マジでどこじゃんね……)

活気のある表通りと違って、静かで茶色だらけの路だった。それもなんだから綺麗に感じた。

「やめてください!離して!きゃっ!」

女の子の叫び声が聞こえて、声の元に走る。 路地の奥に数人の男が私と同い年?ちょいした?ぐらいの女の子の腕を掴んで怒鳴っていた。

「離してください!」

「うるせえ!お前はいい加減立場を弁えるべきなんじゃねぇのか?あぁ?」

「ふざけないで下さい!私はたった一度薬を買っただけではありませんか!その後に買ったことは一度もありませんし、ましてや、あなた達が、一銭も借りておりません!」

「うるせえいやい!見ろ!この契約書を!お前は与り知らずとも、お前の父親の名前が書いておろう!血判もある!」

「朱色なだけで、血判だなんてバカにしないでください!」

「んだとぉぉ!」

パンッ!と紙を持った偉そうな男が抑えられている女の子を平手打ちした。

「あぁ、おやめ下さい、おやめ下さい……私の言葉好きにして構いません。ですが、娘を連れていくだけは……」

ガリガリに痩せた男性が出てきて、女の子を押さえつけている男に頭を下げている。

「お父さん…」

弱々しいその父親を紙を持った男は踏みつけ、高笑をする。

「がっはっはっはっ!先代の主人の面汚しだなぁ?」

最後の言葉に男性は唇くをかみ締めて必死に耐えていた。女の子は泣きそうな目で男を睨みつけて、

「誰のせいで……っ!私達は、あなた達に恨みを買うようなことはしていません!勝手にやってきて勝手な事を言ってきたのは……!」

「がははっはっはっはっ!!そんな事、お前が知る必要な……」

私はうるさい高笑の男を後ろから蹴り飛ばしてそのまま転ばした。

「弱い者いじめとか、ちょーダサいじゃんね?」

「貴さ……?、なぜ異人が居る?」

(いじん?確か、センセーもそんなこと言ってたじゃんね?江戸の人達と私の姿は似ても似つかないし〜)

「そんな事より、大の男が女の子に寄って集って何?腕掴んだ挙句平手打ちとか!ちょーサイテー!マジクズの極みじゃんね!」

咥えているリポップキャンディで男達を指しながら、私は胸を張って言い切った。私は申し訳なさそうにしている男性の前に立ち、情けない男達を睨みつけた。

女の子を掴んでいた男達も私を睨み、一番偉そうな男が私を指さし叫ぶ。

「お前ら!捕まえろ!この女、遊郭に高く売れるぞ!!」

男達が腰に着けている刀を抜く。

「ホント、幼気な女の子にそんな怖いもの向けるなんて、まじありえないじゃんね!」

全員が刀を振り上げた所で私は指を鳴らして全員の口にドーナツを突っ込んだ。しかも、揚げたて熱々のね?

「あちち!」

「あぐっ!」

「はふはふっ!」

のたうち回る男達に追い打ちをかけるためにもう一つづつドーナツを口に入れる。リポップキャンディを噛み砕き、私は冷たい目で男達を睨みつけた。

「次、私の視界に入ったらこの程度じゃすまなさい」

一人の胸ぐらを掴んで低い声で囁いた。

「貴方の喉に詰め込んであげる」

「ひぃぃぃっ!」

その叫びにパニックが伝染したのか、一人が逃げたら全員が逃げて言った。一人、偉そうな男は捨て台詞に「覚えてろよ!」と言って逃げていった。

「バカじゃんね?はぁ……流石にドーナッツ十個はキツイ……」

私の魔法はお菓子作れるけど、引き換えに体のカロリー消えるから、使いすぎにはマジ注意じゃんね……。

「あの……」と、肩を叩かれ振り向けば平手打ちされた女の子がモジモジしながら立っていた。

「あ、ありがとうございます!なんとお礼をしてい申していいのか…あ、お名前は?!」

「私?私は、アリ………アレ?」

(今、頭がふらっとして……あ、なんか、身体がフワって…)

視界が白くなってそのまま倒れてしまった。

「え?!ちょ!大丈夫ですか!あの!もし!?もしー!?」

「きゅう…」

一方その頃、センセーと勝手に呼ばれている青年はアリスを探し回っていた。

「黄金色の髪と椿みたいに赤い目の女を知らないか?」

「変わった着物を着た、異人の顔立ちの女を知らないか?」

「色白の黄金色の髪の女だ。多分、年は二十?くらいか?」

目立つ風貌のはずなのに、みんな揃って「知らない」と首を振る。青年の中で何となく理由は分かっていた。

(異人のアイツに誰も関わりたくないか…クソっ。厄介だ。その上高橋権三郎ごんざぶろうの奴もいる。アイツに見つかる前に見つけ出さないと…あの世間知らず売られるぞ……)

「あれ?いおにぃ?」

肌が浅黒い少年が飴をくわえて話しかけてきた。

理六りろくか」

「やっほー!どうしたの?」

センセ〜と呼ばれる青年がやっている寺子屋に通っている少年だった。

「異人の女を探してる。黄金色の髪に椿の花見たいに赤い瞳の女だ」

「あ!変な着物ねーちゃんか!飴貰った〜」

「そいつはどこにいる?」

「四辻の裏道にいたぜ」

なんでそんな所に……

「分かった」

「あいよぉ〜」

「理六。お前も意味無く裏路地に行くなよ?辻斬りが出る・・・・・・

「はい〜」

そう言って青年は理六が言っていた通りに走って行った。残った理六は飴を舐めながら大きくため息を着いた。

「全く…こんな真昼間に辻斬りは出ない・・・・・・・っての。ホント、お節介だよなー、伊織いおり兄ちゃんは」

理六は肩をすくめて、やれやれとため息をついたのだった。

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