第11話

 夜間の点検は真猿と三村の2人で、今日は排水ポンプ点検である。

排水ポンプは雑用水ポンプ、汚水ポンプ、雨水ポンプ、湧水ポンプといった不要な水を排水するものである。

点検方法は電圧、実際に運転させての電流、圧力、電源を遮断して上での絶縁測定がある。

真猿が電灯盤でポンプの電圧を片っ端から取る。

後ろで三村が点検表に電圧を記載するが、真猿が話を切り出した。


真猿「オール200ボルト… てか、何で三村さん、この仕事始めたんすか?」


三村「今聞くことかよ」


真猿「ちょっと、気になって。作業しながらでいんで、答えて下さいよ。三村さん、比較が嫌いって言ってましたよね。この職場は必ずしも1人じゃない。比較は嫌でもしちまうんじゃ?」


三村「…確かに、前職を決めた理由はそれだけどな。運送屋なら、面倒くせぇ人間関係もねぇし、そもそも誰かと評価されることもねぇ。そういう意味じゃ、気楽だったぜ」


 三村は学校に通っていた頃から、テストでの順位付けや、他者との比較にうんざりしていた。

だから、そういう所には進んで行かなかった。

しかし、転機が訪れた。

子供のことである。


三村「小学校の正門にトラックが突っ込んだんだ。急いでたんだろーぜ。それで、子供がトラウマになっちまってよ」


 真猿は聞いちゃマズイことを聞いたか、とヒヤリとした。

しかし、三村は話を続けた。


三村「運送は金はいいが、飛ばさなきゃ金にならねぇ。金の為に危険を冒すようなとこがある。大事な仕事なんだけどな。でもよ、子供に胸張って言えねーだろ。トラック運転してるなんてよ」


真猿「…それで、転職したんすか」


三村「俺はこの仕事が気に入ってるぜ?この、「安全を作る」仕事がな。こういう場所で働いてる奴からも、色々勉強させてもらってるし、特に猿、お前からな」


 真猿は意表を突かれた。

突然、褒められたのだ。

そして、三村の言葉に、雷に打たれたような衝撃を受けた。


真猿(安全を、作る…)


 三村は少し、照れくさそうに頭をかく。


三村「比較はつまらねーからしねーけど、尊敬はすることにしてんだ。所長は現場に出てこねーから、お前からは色々教わってるぜ。それに、前職の消防設備士だって、数少ねー安全を作る仕事だ。目に見えなくても、もう何人か救ってるも同然だろ」


 真猿は目頭が熱くなった。

今まで、安全を作るなんて発想はなかったのだ。

ついこの前も、自分は何か人の為になりたいが、隣人すら救えない、とボヤいていた。

しかし、しっかりと繋がっていたのだ。

人を助けることに。


三村「消火器を設置すりゃあ、火災で人が助かるかもしれねーし、空調の温度が適切なら、風邪引かないですむかもしれねー。電気点検だって、しっかりしてりゃ、漏電で事故る確率を未然に防いでる。警察や消防士だって大事だが、一番身近な人を助けられんのは俺らだぜ?」



 


 


 

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