第7話 マリアの回想

 日差しがジリジリ照りつける夏日。

マリアはスタジオツアーのグッズショップのバックヤードによびだされていた。

裏手の倉庫には、ロリサダ関連の様々なアイテムが山積みされているが、クッキーやら、せんべいと言ったお菓子が置かれている一角に案内された。


管理人「この辺の商品がダメんなっちまって」


マリア「これって、トカゲチョコですか?」


 小太りでひげを蓄えた、まるでロリサダに出てくるバグリッドのような体躯の男がそう言った。

ダメになってしまったのは、トカゲチョコというトカゲの形をしたチョコだ。


管理人「お客さんからチョコがグニョグニョになっちまってるって、クレームがあってよ。まあ、ここんとこあちぃし、もしかしたら空調が効いてねんじゃねーか?」


マリア「分かりました。ちょっと見てみますね」


 マリアは体感でこの部屋は明らかに暑い、と思った。

空調は個別空調方式で、天井に埋め込まれた室内機がこの部屋を個別に冷やしているはずだ。

マリアは壁に付いているリモコンを見る。

設定温度は冷房の18℃で、かなり低目に設定してある。


マリア(これだと、本来寒いはずよね)


 しかし、室内はじんわり汗が滲む。

試しに資材置き場からスティック形の温湿度計を持ち出し、計ってみると、やはり30℃とかなり温まってしまっているようだ。


マリア(これだとチョコも溶けちゃうかも。う〜ん、何でだろ)


 マリアは一旦所長に連絡を取った。

会社のスマホから事務所の内線電話にかけると、数回のコールで所長が出た。

マリアが事情を説明する。

所長は空調トラブルで、考えられることを説明した。


所長「リモコンが生きてるなら、室外機のブレーカートリップか、室内機に何らかのトラブルが起きたかだな。まずは室内を見て欲しい」


マリア「了解しました」


 マリアがスマホを切り、天井の室内機を見渡す。

しかし、荷物が高く積み上がり、様子が伺えない。


マリア(これって、もしかして…)


 荷物で空調の吹き出しが隠れてしまっている可能性に思い至り、管理人を呼んだ。


マリア「荷物で冷たい空気が塞がれちゃってるかも知れないんで、どかせますか?」


管理人「お〜、そういうことか!」


 管理人が脚立を立てて荷物をどけ始めると、ゴオ、と勢い良く冷風が管理人の顔目掛けて吹いた。


管理人「おおっ、涼しい!」


マリア「ふふ、良かった」


 しばらく様子を見るように言って、その場を後にした。

それから休憩時間になり、マリアは遅日勤の真猿と共に社員食堂に来ていた。


真猿「今日はミニカレーと豚骨ラーメンにするか」


 券売機に千円札を入れ、250円の小銭が出てくる。

マリアはチキンソテーのA定食にし、500円のコインを支払った。

2人で空いている席に座り、真猿がミニカレーをがっつき始めると、マリアは随分食うなぁ、と思いながらチキンソテーをそのまがぶっ、とやる。


真猿「怪獣みたいな奴」


マリア「家ではみんなこうやってるの!」


 白濁の豚骨スープをレンゲですすりながら、真猿が訪ねた。


真猿「ところでさ、マリアって元声優だろ?どういうキャラの声したことあるんだ?」


マリア「コホン」


 マリアは一度小さく声を吐くと、箸を横に振るって言った。


マリア「へきえき、一閃!」


 周りの人がこちらを見る。


真猿「えっ、それって、「鬼ころしの剣」の善一じゃん」


 鬼ころしの剣は、ジャンプで連載されていた大ヒット漫画である。


マリア「…もしチャンスがあれば、私が声やってたかも知れないんだ」


真猿「えっ、マジで!?」


 マリアはふっ、と少し笑ったような、しかし目はどこか遠くを見つめていた。

自分でも懐かしい、この喉の鳴らし方。

そして、昔の話を打ち明けた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る