Day XX 敵対の刻 ヴィクトリア



 私達の前のこの木造の家が真実の泉だと姫ちゃんは言う。

やはり泉って名前は似合ってない、ただの家だ。


「これ、木じゃないね」


姫ちゃんが言うにはかなり強力な魔法で作られた家らしく、試しに斬ってみてと言われ、攻撃してみると全く傷が付かない。

腕に伝わる感覚は酷く固いものを叩いた時の痺れで、とてもこの見た目からは考えられない固さだ。


「はいろっか」


姫ちゃんが扉を開けると、中には椅子と何も入っていない額縁、そして小さな、寂しい印象を受ける電球が天井に一つあるだけだった。


姫ちゃんが使い方を説明しながら椅子に座った。


「知りたい事を思い浮かべて、考え方は前教えた通りね」


「初めて使うっていってましたけど、良く知ってますね」


「先輩が教えてくれたの、真実の泉を探せって言って......」


姫ちゃんの先輩、多分姫ちゃんの旦那さんの事だと思う。

『ひどい環境だった、でも幸せだったのは先輩のおかげだったよ』


姫ちゃんは少しだけ暗い顔をしてから、私を見て笑顔に戻った。


「この椅子に座ってあの額縁を見るの、ぼーっと見る感じね、リラックス、それでいて集中する感じ」


「逆の事言われても難しいです」



 姫ちゃんが座ってから数分。

空気が変わった。

そして姫ちゃんの様子がおかしくなった。


「先輩......先輩ッ!」


「お前...絶対に許さない」


「息子は、ソレビアはどこに行くの」


ソレビアさんって、レーウの町にいたあの人!?

あの人、姫ちゃんの子供だったの?


「そんな酷い、ごめんなさい。守ってあげられなくてごめんなさい」


「逃げて偉いわ、戦っちゃダメだからね」


そして、彼の名前が表れた。


「クロ君? 何でクロ君が」


「何でソレビアとクロ君が戦ってんのよ!」


「ダメだ、殺さないで、クロ君!」


「そんな......嘘」


クロ君がソレビアさんを殺した?

そんなことあるわけがない。

彼はそんなことする人じゃ......。


 姫ちゃんが立ち上がった。

涙を流して、目は虚ろ。さっきまでの姫ちゃんじゃない。


「ヴィク、ごめん」


「何が...ですか」


「あの男は殺さないといけなくなった。だから」


「待って下さい! 確かにソレビアさんとクロ君は知り合っていましたが、殺しては」

「レーウについてから、ヴィクはクロ君と別行動してたでしょ? その時よ、メイド、いや双凛とクロはレーウの町の住人を殺していった。一人残らず、説得しようとした私の息子も、小さな子供まで......」


姫ちゃんが嘘を言っているようには見えない。

でも、クロ君がそんな人じゃないって分かってる。


「確かめなさい、あの男の本性と、真実をね」


私は、椅子に座った。



 

 

 私が座って最初に思い浮かべたのはレーウの街とレーヴェさんの事だった。

何も無い額縁が映像で満たされていく。

でもそれは映像と呼ぶには生々しくて、気がつけば額縁の中の映像を見ているというより、映像の中に入っているような感覚を覚えた。

 

「ここは……レーウの街だ。でもこんな……」

 

足元には死体が転がっている。

正確には意識のある死体。

手足がピクピクと動き切り離された頭部の目はグラグラと動いている。

おそらくだけどこれが死の解除がされていない人なのだろうと言い聞かせ、むりやり理解した。

 

『やめてください』

 

『さっさとくたばれ! ゾンビもどきが!』

 

そしてむこうには、刀を振るうクロ君と、ナイフを両手に持ったソレビアさんの姿が見える。

 

『おらッ!』

 

クロ君がソレビアさんの腕を切断した。

後退りするソレビアさんの腹部から双凜さんの腕が突き出て、彼は死んだ。

 

『終わったな、ナナシム』

 

『いえ、まだ残ってますよ』

 

 クロ君達は移動した。

ムユリさんの屋敷の端、私が行ったことのない場所。

 

『アナタ……何で……』

 

『正気に戻って! 頼むから!』

 

そこには特殊なブーツを履いたムウマさんがいた。

ブーツは膝まであり、脛の部分は刃物で出来ている。

加速の為のジェットも付いていているけれど、私の知らない武器で名前が分からない。


『最後だな、やるぞナナシム』

 

『はい。……あぁ、気の毒に』

 

『この人に何したの!?』

 

双凜さんはニヤニヤとしながら、『きっと貴女の事はゾンビに見えてますよと言っている』

 

『ムユリの魔法……あの子魔法なんて……痛ッ!』

 

頭部に双凜さんの投げたレンガが直撃した。

クロ君が怯んだ隙に距離を詰めるが、攻撃は躱される。

 

『……どうすれば』

 

『その銃、試してみませんか?』

 

激痛で頭を抱えるムウマさんに対し、双凜さんはクロ君にヒューマトロン使用の提案をした。


『まって、洗脳魔法なら……私の知ってる解呪の魔法で!』

 

『近寄らせる訳無いでしょ』

 

紙を取り出したムウマさんが何かを取り出した。

表面は手紙で、その裏に何かを必死に書いている。

 

『正気に戻って!』

 

『今です』

 

そして、ムウマさんはヒューマトロンで消された。

渡そうとした紙は双凜さんに回収され、クロ君は意識を失った。


レーウの街は、二人の手で崩壊した。


『これで少しでも成長すればいいな』

 

双凜さんはクロ君の頭を撫でて、彼を運んだ。

 

 

 その後、クロ君がムユリさんに結婚を申し込んだ。

言い出したのはムユリさんだけど、一番驚いているのはムユリさんだった。

 

『今はダメ、花嫁修業しなきゃ。』

 

そしてクロ君はムユリさんから私の居場所について聞いていた。

 

そして、レコンキスタに場所が変わった。

 

『レーヴェを殺して、ヴィクトリアさんを救うぞ』

 

「えっ……」

 

さらに景色が変わった、ここはレーヴェさんがいた地下セーフ室だ。

 

『な、何をする!』

 

『私の息子がヴィクトリアに惚れててね、33との争いに巻き込まれて死なせたくないらしいの』

 

『貴様一体何者……や、やめろ!』

 

『シリーズ:レーヴェはスペックだけ見ればかなり強い、でも何で量産されなかったと思う? 正解はばらつきがあるから』

 

レーヴェさんの残った腕が引き抜かれた。


『グァッ! 貴様!』

 

『お前がファーに捨てられた理由は何だと思う? そう、失敗作だからだよ』

 

そこからは圧倒的だった。

腕を無くし、元々弱っていたレーヴェさんが双凜さんに勝てる訳がなく、無惨に殺された。

 

見ていて吐きそうだった、辛かった。

でも、一番辛かったのは。


 『俺達は外で隠れる。そしてエムエムさんがここに残ってヴィクトリアさんにレーヴェの死体を見せつけるんだ』

 

クロ君が、本当に私の敵になった事だった。




 

 

 場面は知らない街に変わった。

そこではあの人が、私の仲間がいた。

 

『漣・F・66、漣よ』

 

漣さんだ。

自分のオリジナルの武器を盗んで何処かに消えたと聞いていたけれど、無事に生きていた事がたまらなく嬉しかった。

 

でも、漣さんは。

 

『いいわよ、もう終わりたかったしアンタに付いていくわ。ファスタロッテも殺せるし』

 

『あのね、そんなに私の事考えてるってアピールされても気持ち悪いだけなの分かってる? 婚約者みたいな人いるんでしょ!?』

 

『ったく、バカね』

 

『ほら、私の背中守るんでしょ。しっかり付いてきなさい……って、アンタの旅に付いていくって話だったのに、これじゃどっちがどっちだかわかんないわね』

 

『私達がベストカップル……うげ、どんな判断基準よ。あ、ドレスは頂くけどまだ着ないわ。ええ、後でこの人が式を挙げるからその時に使うの』

 

『何回聞かれても答えは同じよ、ファスタロッテを守るならヴィクトリアだって殺すわ。私よりアンタが覚悟決めなさいよね』

 

私の敵だった。


 クロ君に唆されたのかと思ったけど、漣さんは元々ファスタロッテ様を嫌っていた。

彼女の大切な仲間

BB・F・61

漣・F・67

フランソワーズ・F・K01

JAC・F・CP

彼女達は確かに死んだし、ファスタロッテ様の責任だと言えばそうだけど、戦争中だったし、ファスタロッテ様が直接何かをした訳じゃない。


みんな、人として機械人形と戦って死んだんだ。

フランソワーズさんだって、きっとそうだった。

 


 『そろそろファスタニアに着くけど、花嫁に渡すドレスは汚さないようにね? あ、入手方法は聞かれても適当にはぐらかしなさいよ? ドロドロに巻き込まれるのはゴメンだから』

 

「漣さん……私……」

 

ファスタロッテ様を殺しに行くのに、漣さんはとても笑顔で、一緒にいるクロ君も笑ってる。

かつての仲間達といた時みたいな笑顔で、私の守るべき人の殺害方法について話している。

 

『さ、行くわよ』

 

「止めます、私が双凜さんと漣さん、そして……」

 

クロ君と話し合う。

敵だけど、ファスタロッテ様を守るなら彼と争うよりも協力すべき。


「誰一人、これ以上死なせない」

 

クロ君を目の前にしてもこの決意がレーヴェさんの恨み、敵討ちの欲に飲み込まれないように祈りつつ、私は椅子から立ち上がった。

 

 

 空はすっかり曇り、灰色の雨を降らせている。


「……終わった?」

 

姫ちゃんは泣き腫らした目をしていて、それを隠そうともしない。

 

「行きましょう、ファスタニアに」

 

私はやってみせます、絶対に、やってやる!

 

 




 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る