第3話 ハコベダ村

「ミーちゃんさ、何で魔法が使えるの?」


「ああ、それは転移する時に神様から貰った能力なんじゃよ」


 神様?僕、会ってないけど?

 背中越しに、声が聞こえる。

 僕はまだミーちゃんに背負われたままだ。


「友樹が眠っておった時に貰ったのじゃ」


「そうなの?僕も神様に会いたかったな…僕も魔法使いたいし」


「友樹も使いたいのか?」


「そりゃ、せっかく異世界に来たんだから使ってみたいじゃない」


「そうか…村に着いたようじゃの」




 木の看板に異世界の文字が書いてある。


「ハコベダ村。あれ、読める。何でだろ」


「転移した時に、言語理解能力も神につけてもらったからの。相手の言葉も分かるようになっておる」


「お前ら他所もんだな。冒険者か?」


 茶髪の中年男性が声をかけてきた。

 腰には長剣がぶら下がっている。


「いいや。冒険者ではないが、今日泊まるところを探しておっての。どこか無いだろうか?」


「そうか、村長に訊いてくるわ。ちょっとそこで待ってろ」





 村の入口付近で、しばらく待つ。


「何だかあっさり泊めてくれそうだね」


「友樹を見て、怪我をしたと勘違いをしたのかもしれんな。怪我の功名ってやつじゃの。流石に重いのでそろそろ降ろしたいのじゃが」


 僕は、大きな石の上に降ろされてしまった。


「流石に疲れた…」


 ミーちゃんが肩をぐるぐる回していると、中年男性が戻ってきた。

 今度は中年男性が僕を背負う事になった。

 うーん。

 筋肉で固い男性の背中よりは、柔らかいミーちゃんの方が良かったな。





 僕とミーちゃんは村長の家へ案内された。

 空き家で良かったのだけど。

 村長の息子が、ちらちらとミーちゃんを見ている。


 ああ、そういう事か。

 ミーちゃん、黒髪がミステリアスな雰囲気で美人さんだもんなあ。

 気に入られたのかもしれない。


「ところで、君たちはパーティ仲間なのかな?」


「えっと…」


「友達です」


 僕が考えあぐねていると、直ぐにミーちゃんが答える。

 友達…まあそうなんだけどね。

 正直に話すことも無いだろうし。


「どうした?友樹。ワシら友達じゃろう?」


 僕が怪訝な顔をしていたのか、ミーちゃんから訊ねられた。


「変わった喋り方をする女性ひとですね。良かったらお名前を教えて頂けませんか?」


「…ミーシャじゃ」


「トモキとミーシャですね。俺はザッハです」


 名前を一瞬で考えたのだろうか。

 ミーシャ綺麗な名前だ。


 村長のお宅は、客人用の寝室があってそこへ案内された。

 他の村人の家よりも広いので余裕があるのだろう。


「ところで、トモキは怪我は大丈夫なのですか?村で回復魔法を使える者を呼んできましょうか?」


「良いのですか?よろしくお願いします」


「治してもらえるのはいいが、ワシら金持っとらんぞ?」


「お金は要りませんよ。代わりに村で何か手伝いをしてもらえれば」


 灰色髪のザッハが、ミーちゃんに向かってニコリと笑った。



 *** ザッハ 視点(村長の息子)



「ミーシャか。ギルが言った通り、見たことが無い美人だな。口調が変わっているがそれも愛嬌と思っていいだろう」


 俺は、ギルが連れてきた旅人のミーシャを気に入った。


「ザッハ坊ちゃん、上手くやって下さいよ?」


「分かっている」


 ミーシャは今まで見たことが無いタイプだ。

 冒険者が度々村を訪れるが、男性と一緒の女性は付き合っているのがほとんどだ。

 今回は友達と言っていたから、深い仲ではないのだろう。


 彼女を、取り巻きの一つに加えても良いかもしれんな。


「男の方は、適当に金でも握らせておけばいいか」


 金を握らせれば、大概の男は言う事をきく。

 そうやって今まで、女性を捕まえてきた。

 飽きたら捨てればいいだけの話だな。


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