第11話

 ノジさんは、それからも毎日、ちゃんと定刻通りに遊びに来ては、穴虫さんと同じ話題で笑い合っていた。そんなノジさんをちゃんと迎えにきて、子供時代の自分に戻して、ノジさんと接する草太さん。これからもこんな毎日が続くのだと思っていた。


けれど……


「今日、ノジさん来ないっすね」

「来ねぇほうが静かに新聞読めるから、好都合だけどなぁ」

「そうっすけど、いないと静かじゃないっすか?」

「いつも、五月蝿いって言ってるじゃないか」


睨みを効かせる穴虫さんに、僕は本文の字を喰われた古い小説を手に持つ。


「五月蝿いのと静かなのと、その間が無いから嫌なんすよ」

「菅野君て、いつから我儘坊やになった?」

「坊やって、子供扱いしないでもらえます? ハラスメントで訴えますよ」


少し揶揄う感じで言ったものの、穴虫さんはピンと来ていないのか、阿保面になる。


「はらすめんと? なんだそりゃ」

「いや、だからハラスメントっす」

「ハラスメント、ねぇ」

「そうっすよ。でもまあ、訴えるってしつこく言ってるのもハラスメントに当たるらしいんで、言わないっすけど」

「ダハハハハ、菅野君は怖がりの怯え者か」


ハラスメントの言葉の意味をよく理解していないのに、同じような意味合いの言葉を二重に重ねて馬鹿にする。そんな穴虫さんに呆れた僕は、「黙ってください」と言って、小説を段ボールに入れた。

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