第3話
アルバイトの僕は、穴虫さんの下の名前も年齢も知らないまま、仕事をしている。僕の仕事内容は、店内の掃除と、来客対応、そしてジクイムシに文字を喰われた書物の修復……。これを毎日繰り返している。
この古本屋にアルバイトとして雇われたのには、それなりの理由があった。僕としては、ちゃんと約束を交わしたのだけれど、穴虫さんは自分の素性は一切明かそうとしない。交換条件的に僕は不利を被っている。
穴虫さんの年齢は、顔を見れば何となく想像できるけれど、性別に至っては本当に未知。女性にしては高身長で、角張った手をしているし、男性にしては華奢で地声が高い。性器……、いや、喉仏を見れば男女の判別ができるのだろうが、年老いた人だから、本当に分からないのだ。明かされないからといって、別に困っていることはないが。
「さーせんした」
僕は相槌みたいな感じで、テキトーに返事する。ノジさんに適当な挨拶をしたからと言って、穴虫さんに謝る気はさらさら無い。ノジさんみたく邪魔しに来る客に、今更丁寧な挨拶をする必要はないんだし。
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