古本屋 穴虫

成城諄亮

第1話

 古本屋穴虫に置かれている古本には、時々[ジクイムシ]なるものが遊びに来ていて……。


「穴虫さん、この本、ここに置いといていいんすか?」踊るジクイムシを払いのけて、気怠い感じで座っている店主の穴虫さんに話しかける。


「あ、それ、なんの本だっけか?」

「知りませんよ。それに、ジクイムシが表紙の文字全部喰ってるんで、分かんないす」

「なら、出る幕じゃねぇ。菅野君に任せるよ」

「そうっすか。分かりました」


 僕は手に取った本を、レジ下に置いてある段ボールの中に入れる。ジクイムシに字を喰われてしまい、解読不可になった本はこれで五冊目。十冊積み重なれば仕事を——


その時だった。いつもの人が、いつもの時間に姿を見せた。上着の糸はほつれ、膝の部分が擦り切れている、上下ボロボロの服を見に纏った状態で。


「よお、やってるかあー」

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