工業高校にも女子はいる

茉莉鵶

第0章 工業JKのいつもの朝

第1話 工業高校にも女子はいる

 ──ピリリリリッ…リッ…

 ──ピリリリリッ…リッ…


 「んんっ…。」


 枕元に置かれたスマホのアラームの音で、私は目を覚ました。閉じられたカーテンの隙間から、薄ら明かりが漏れてきている。

 アラームを止める為に、私は枕元に置かれたスマホを手に取ると、未だアラームが鳴り続けている画面を見た。

 すると、スマホの画面に表示されている現在の時間は、“06:01”になったばかりだった。


 ──タンッ…


 「ふぅ…。」


 私の名前は、前田まえだ芽愛梨めあり。キラキラな名前からお察しの通り、父親が北欧人の婿養子で母親が日本人で当主のハーフだ。

 富士市内にある県立吉永工業高校へと、今年の4月から通い始めた女子高生でもある。

 私のような工業高校や大学へ通う女子のことを、通称で工業女子と呼ぶそうだが、認知度は低い。

 そもそも、工業高校に女子がいるのは、都市伝説だと思われていることが多い。

 だから、私は声を大にして言いたいのだが、工業高校にも女子はいる。

 私の在籍する1学年に関して言えば、4学科あるのだが1学科につき、1クラス40名定員になっており、全4クラスとなっている。


 ──ギシッ…ギシッ…


 「よい…しょっ…。」


 ──トンットンッ…

 ──ピッ…


 こんな話をしていると、遅刻してしまいそうなので、私は身支度をする為、薄暗い自分の部屋のベッドの上で身体をゆっくり起こした。その後、ベッドの上から降りた私は、側にある机の上にあるリモコンで部屋の明かりを点けた。


 ──ススッ…ススススッ…

 ──パサッ…


 それでは話を戻すが、男女比率は学科にもよるのだが、少ないクラスでは10:0で皆無だが、多いクラスでは7:3も在籍している。因みに、私のクラスは9:1弱の3名だ。

 クラスに着いたら、私以外の女子2名について紹介しようと思う。


  ──グッ…


 「う…。」


 ──ググググッ…

 ──バサッ…


 色々と説明している間に、私は着ていたパジャマの上下を脱ぎ終えたところだ。まず、これからブラジャーをつけ始めるのだが、そのブラの上へと更にインナーを着るか着ないかで、JKの間では論争がある。


 ──カチッ…カチッ…

 ──ズッ…ムギュ…ッ…パチッ…

 ──ズッ…ムギュ…ッ…パチッ…


 因みに私はというと、汗をかきやすい体質なので、ブラの上には薄い生地の袖無しインナーを着るようにしている。

 それは、まだ1年生ということもあるのだが、ただでさえ女子が少ない工業高校の中で、しかも私はハーフということもあり目立ちやすい。だから、下手なことをして上級生に目をつけられるのは避けたい。

 まぁ、そのインナーを丁度着たところなので、更にその上に制服のブラウスを着ていく。


 ──スッ…スッ…


 そう言えば、これもあまり知られていないことだが、工業高校の女子の制服は、普通高校の制服よりも可愛いデザインのものが多い。

 でも、そもそも女子が少ないので、他校の生徒が工業女子高生(以降、工業JK)の制服姿を拝める機会は少ない。ただ、工業男子校生(以降、工業DK)だけは毎日のように、工業JKの制服姿を拝むことが出来る。


 ──ヴヴッ…


 ブラウスのボタンを全て留め終わり、ブレザーと一緒にハンガーに掛けられているネクタイへと、私が手を伸ばしたところで、ベッドの上に置かれたままのスマホが鳴動した。


 「もう…。こんな朝早くに、誰…?」


 ──グッ…ググッ…


 「う…。」


 ──パシッ…


 そう愚痴りながらも、私は上はブラウス下は下着姿という中途半端な格好のまま、ベッドに左手をつくと枕元に置かれたスマホを、右手を伸ばして掴んだ。


 ──ギシッ…


 「本当に誰からだろう…。」


 ──カチッ…


 まだ靴下もスカートも履けていない状態で、ベッドの上に腰掛けてしまった私は、そのままスマホの側面にある電源ボタンを押して、画面を点灯させた。

 自分でも身支度などの途中で中断するのは、悪い癖だとは分かってはいる。でも、私は一度気になってしまうと、確認しなければ気が済まない性格のようで、衝動を止められないのだ。


 ──『新着メッセージ:【インスカ】凜杜りんと からのDMチャット』


 「やば!!凜杜からだ!!」


 スマホの画面には、今巷で流行りのSNSアプリ“Instant Callee(インスタント・コーリー)”、略してインスカからの新着メッセージの通知が、バナー表示されていたのだ。

 DMチャットとはインスカの機能の一つで、DM(ダイレクトメッセージ)をフォローしている相手へと、チャット形式で送信出来る機能のことだ。


 それと、DMチャットの送信者である凜杜についてだが、別に怪しい相手ではない。

 隣の家に住んでいる、私より一つ年上の幼馴染で、田住たずみ凜杜りんとという男子だ。


 ──タンッ…

 ──『芽愛梨、おはよう。』


 慌てて私はスマホの画面上に表示されていた、新着メッセージのバナーをタップした。すると、まずインスカのアプリが起動したのだが、すぐにアプリの表示はDMチャットへと切り替わり、凜杜からの最新のチャットが表示された。


 「え!?朝の挨拶だけ…?!」


 ──タンッ…

 ──「凜杜、おっはよー!!」


 ──グッ…


 朝から私に何か用があるのかと思って、少し期待してしまったのだが、他愛もない朝の挨拶のチャットだった。

 なので、とりあえず私も挨拶のチャットを送り返すと、中途半端な状態の身支度を再開しようと、腰掛けたベッドから降りようとベッドに片手をつけた。

 

 ──ヴヴッ…

 ──『今日は、何時ごろ行こうか?』


 「ん…?凜杜、何言ってるんだろ…?」


 まるで私からのチャットの返事を、凜杜は待っているかのような反応速度でチャットが返ってきてしまった。その内容も、長くやり取りが続きそうな予感がして、私はベッドから降りるべきかどうか、その判断に悩んでしまい降りるのはやめた。


 ──タンッ…

 ──「私は、いつもの時間でオッケーだよー?」

 ── 『わかった。でも、少し芽愛梨に聞いておきたいこと、あるからさ?少し、早めに迎えに行くな?』


 「ええええ!?私に聞きたいことって、何?!」


 今度はほぼリアルタイムで凜杜からチャットが返ってきたため、スマホも鳴動すらしない。インスカはそういう仕様のようだ。

 実をいうと、凜杜からのチャットの内容に、私は動揺を隠せなかった。今までこんな展開のチャットなんて、貰ったことなかったからだ。


 ──タンッ…

 ──「オッケー。支度して待ってる!!」

 ──『早朝から急に連絡して、悪かった。』


 「なんか、今日の凜杜…変じゃない?」


 急に私に謝ってきたりして、明らかに凜杜の様子がおかしかったが、そんな私も平静を装うのに必死だったので人のことは言えない。


 ──タンッ…

 ──「ううん?大丈夫だよ!!凜杜は私の幼馴染じゃないかー!!」

 ──『そうだな。じゃあ、また後でな?」


 「は、早く支度しちゃわないと!!」


 ──ググッ…

 ──トンットンッ…


 凜杜からチャットが来なくなったので、私は腰掛けていたベッドから降りると、再びブレザーと共にハンガーにかけられたネクタイに手を伸ばした。


 ──シュルッ…シュッ…


 「はぁ…。」

 

 実は、私が通う吉永工業高校だが、入学する2年前の制服のデザインは今よりも秀逸で可愛く、しかも女子はネクタイではなくリボンで、女子のみスカートと同柄の専用ベストが用意されていた。

 昨年の夏、体験入学に行った際、当時3年の工業JKがその制服を着ていた為、今の私の制服と見比べてしまうと、余計にガッカリ感は否めない。

 せめて、ベストだけでも廃止せず残して欲しかったが、新制服をジェンダーフリー制服にするにあたって、共用化したかったのだろう。


 ──シュッ…

 ──カチッ…カチッ…


 そのジェンダーフリー制服に、現在は変わっている為か、入学が決まり制服を作る際、スラックスかスカートかを選択できた。

 勿論、私はスカートを選択したのだが、過保護な父親が『冬ハ絶対脚ガ寒イヨ!!』と、スカート2枚の他に、スラックスを1本作らされた。

 そんな話をしているうちに、スカートも履き終わったので、これから私は洗面所へ行ったりしてこようと思う。

 では、また後で。

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