第7話 長い夜

「お疲れ様、今日はここまでにしよう」

「……うまく出来ませんでした。なんだか混乱してしまって……」


 カーラさんは明らかにしょんぼりとしていた。


「そんなことないよ。初めてであれだけ動けたなら十分だから」

「そう、なんでしょうか?」


 確かに本人からしたら、内面世界での動きはぎこちなく感じるものだったのだろう。

 しかしそれは夢の中で体が思うように動かないのと同じようなものなのだ。


 さらには、自分自身との戦いという、現実ではあり得ないようなシチュエーション。

 戸惑ってしまうのも仕方ないだろう。


 ただ、この静の間の練習を繰り返し行いながら、徐々に滑らかに動けるようになっていくはずだ。


 そしてそうすることで、体内での魔素の流れ自体もスムーズに操れるようになり、そうすることで門が開かれることとなるのだ。


「それにさ、私なんて最初の静の間で出てきてのは木片積みだったからね」

「積み木みたいなことですか?」


 私は軽い調子で自分自身が最初はどうだったかを告げる。


「そうそう。まさにそんな感じ。見渡す限りの木片をただひたすら積んでいくだけ。それでまずは静の間での手首から先の動きを練習した感じ。それに比べたら、最初から全身を使って戦うというカーラさんは才能あるから」

「そう、なんでしょうか」

「そうそう」


 私の不器用な慰めが少しは効いたのか、しょんぼりとしたカーラさんの顔つきが少し明るくなっている。


「それじゃあ次はまた来週、同じ曜日の同じ時間でいいかな?」

「はい、大丈夫です!」

「それまでもし時間があったら、瞑想だけしておくといいよ」

「わかりました! やっておきます」


 元気よく返事をしてくれるカーラさん。

 そのままカーラさんは帰っていく。


 私はカーラさんを見送ると、なんとなくほっとため息をつく。そして残りの休憩時間で急いで夜ご飯を胃に詰め込んでいく。


 あと少しで全部食べ終わるかなーというところだった。


 用務員室のドアがばんばんと叩かれる音がする。


「用務員さん、用務員さん。いらっしゃいませんか?」


 ──あれ、誰か来た? カーラさんじゃないよな。わざわざ声かけするってことは


「ふぁーい。いま開けます」


 口一杯に詰めこんだ食べ物のせいで返事がこもる。

 急いで咀嚼しながらドアへと向かうと開ける。


 そこには、焦った表情のリラ先生が立っていた。


「どうされました?」

「すいません、生徒が一人、数日前から行方不明みたいなんです。もしかしたら、魔の森に──用務員さんが、封印柵を見てくれた際に、何かご覧になっていないかと思って!」


 不安げな表情でくいぎみに告げる、リラ先生。

 どうやら今日も長い夜になりそうだった。


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