第2話 魔の森
「よーし。応急処置しただけの柵だけど、とりあえずは一晩、持ったな」
リラ先生に言われた現場に行って確認した、壊れた封印柵。それは魔術的には完全に機能停止状態だった。
魔の森と学園の境にずらっと並ぶ柵の列に穴が空いていて、そこにあるはずの柵は魔の森側に転々と転がっていたのだ。
ただ、柵そのものには損傷が少なかったので、散らばった柵を拾い集めて土に差し直すと、魔法で封印を活性化する応急処置だけしたのだ。
それから夜通し、数時間おきに確認に来ていたのだが、無事に封印は破られることなく、魔の森に生息する魔生物たちが学園に侵入した形跡はなかった。
「ふぁー。あとは、やってる時間になったら業者の方に連絡して……」
さすがに夜勤明けは眠たい。
今後の予定を呟きながら、私はあくびをしてしまう。
そうして早朝の森を封印柵沿いに歩きながら用務員室に戻ろうと私が歩いている時だった。
「あれは……生徒さん?」
学園の制服を着た人影が見える。
その人影はまるで、無理やり封印柵を乗り越えようとしているようだ。
柵を登って、今まさにまたごうとしている足の先に、白いものが見てる。それが、朝の日の光で、とても目立つのだ。
どうやら、その生徒さんの片足の足首には包帯が巻かれているようだった。だからか、動きが少し、ぎこちない。
「きみー、許可証はあるのかーい?」
私は思わずその生徒に声をかけてしまう。
こんな時間、しかも正規の入り口以外のところから魔の森に入ろうとしているのだ。
十中八九、許可をもらってないと思われる。
私の声かけに、生徒さんがぴたりと動きを止めて、こちらを向く。
その瞳に、見覚えがあった。
「あ、昨日の──」
「──リゲルさん? ──あ、きゃっ!」
こちらを向いたところで、ちょうど柵の上にまたがった生徒さんが、バランスを崩す。
しかも良くないことに、倒れこんだのは魔の森側だった。
私は慌てて杖を取り出して駆け出す。
『一たるは全、全たるは一。等しく根元への門は開かれん』
私の体が身体強化の効果で加速する。
「いたた……」
とりあえず、生徒さんはお尻から地面に落ちたようだ。下も柔らかな土だったのか、直ぐに立ち上がっている。
どうやら、落下自体の被害は、制服が汚れたぐらいで済んだ様子だった。
問題は、落ちた場所だ。
「すぐに助けにいく! 余裕があったら、前に見せてくれた魔導結界を!」
「えっ!」
驚きの表情を浮かべた生徒さん。しかしすぐに私の言葉に反応して魔導の発動準備を始めている。
幸い、落下の際に、魔導媒介は飛び散らなかったようだ。
生徒さんが制服の胸元から取り出したのは一枚の羽根だった。
それを掲げるようにして生徒さんが呟く。
『魔導結界』
生徒さんの手の中の羽根が消滅すると同時に、彼女を包み込むように魔導結界が張られていく。
それはまるで光で出来た羽だった。親鳥が雛を包み込むように、生徒さんの全身が光の羽で覆われていく。
──良かった。彼女の発動が間に合って
私が生徒さんのところまであと少しというところで、魔の森の方から何匹もの魔生物たちが飛び出し、そのまま彼女へと襲いかかる。
それは蛇の姿をした魔生物だ。
ただ、その一体一体が成人男性のふとももぐらいの太さがある。
それらが牙を向いて、彼女へと飛びかかったのだ。
幸い、魔導結界がその牙を弾き返していく。ただ、結界も無傷ではなかった。
牙の通った跡が、深々と残されていく。
「きゃっ」
悲鳴をあげる生徒さん。
ようやくそのすぐ背後、柵のこちら側へと到達した私は、柵を越えようと力の限り跳躍する。
──彼女の魔導結界、長くは持ちそうにない。展開規模に対して、強度がさほどでもないのかな? なんにしても、すぐに片付けないとっ!
私は空中で身を翻すと、眼下の魔生物たちを一掃しようと魔法を発動したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます