第4話 新しい絆

季節が変わるたびに、小春との距離は少しずつ縮まっていった。

最初の頃に比べれば、笑顔を見せてくれることも増え、言葉を交わすたびに、少しずつ互いに理解し合っているような感覚が芽生えてきた。しかし、それでもなお、完全に心を通わせるには時間がかかるのだろうと感じていた。

小春は相変わらず、学校では明るく友達と遊び、家では時々寡黙になって、何かに悩んでいるような顔を見せる。

それでも、以前よりは心の奥底にある不安や怒りを、僕に向けることは少なくなったように思う。

それでも、完全に彼女の心を理解できたわけではない。

だが、ある日のこと、僕が少し疲れた顔をして帰宅したときのことだった。小春が僕を見て、こんなことを言った。

「お父さん、顔色悪いよ。お昼ちゃんと食べてる?」

その言葉は、あまりにも突拍子もないものだった。

小春が、僕の体調を気にかけているなんて、思いも寄らなかったからだ。

彼女の目は、しっかりと僕を見つめていて、その優しさがまるで母親のように感じられた。

「大丈夫だよ、ありがとう」

僕は笑顔で答えたが、小春は納得した様子ではなく、しばらく黙って僕を見ていた。

「無理しないでね。だって、お父さんが倒れたら困るでしょ?」

その言葉が、まるで僕を心配しているかのように聞こえて、僕は一瞬、言葉を失った。

彼女にとって、僕はもうただの「お父さん」ではなく、ひとりの存在として捉えられるようになったのだと、心から実感した瞬間だった。

その日から、何気ない会話の中でも、小春は少しずつ僕を気にかけるようになった。

晩ごはんを作るときには「お父さん、手伝ってあげる!」と言って台所に立つようになり、たまに冗談を言っては笑わせてくれることも増えた。

それでも、時折、小春は僕に遠慮を見せることがあった。

例えば、夜遅くまで仕事をしている僕に対して、「寝かせてあげるね」と言って、先に寝室に行こうとすることがある。

それは、もしかすると、小春が僕に対して「心配」をかけたくないという気持ちから来ているのかもしれないと思うと、胸が痛くなる。

ある晩、僕が夜遅くに帰ると、小春がリビングのソファに座ってテレビを見ていた。

僕が入っていくと、すぐに顔を上げて、少し照れくさそうに言った。

「お帰り、お父さん。お疲れさま」

その言葉には、何とも言えない温かさが含まれていた。

それを聞いて、僕は少し顔が緩んだ。

「お前も、遅くまで起きてたんだな。大丈夫か?」

小春は静かにうなずいた。

何か話したいことがあったのだろうかと思ったが、しばらく黙っていた。

それでも、僕は無理に何かを聞くことなく、隣に座った。

「お父さん、最近、何か元気ない?」

その質問に、僕は驚いた。

小春が、僕の心の変化に気づいていたのかと思うと、少し戸惑った。

だが、そんな小春の優しさに、今度は僕が力をもらったような気がした。

「うーん、ちょっと忙しくてね。でも、大丈夫だよ。心配しなくていい」

僕は無理に明るく言った。

小春は黙って僕を見ていたが、その視線は温かく、優しいものだった。

僕はその目を見つめ返しながら、心の中で誓った。この子がどんなに成長しても、僕は絶対に彼女の支えであり続けるんだと。

そして、その後、小春がふと口を開いた。

「お父さん、私、前みたいに怒らないから、無理しないでね」

その言葉に、僕は思わず笑ってしまった。

小春がそんな風に心配してくれるなんて、まだまだ彼女には教えられることがあるんだと感じながらも、彼女の成長を嬉しく思った。

そして、僕はその夜、小春が寝るまで隣で一緒に過ごすことにした。

あの頃の不安や壁が少しずつ崩れてきているのを感じながら、僕はただ、小春と過ごすこの日々が、何よりも大切なものだと思った。

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