第32話
髪を梳くその手があまりにぎこちなくて。
でも、同時に普段から簡単にこなしていたように見えた君が。
私を靡かせるために尽くしたと言った君が。
頑張ってこの仕草や立ち居振る舞いを健気にしていたと自覚させるには充分で。
嬉しさが込み上げる。
ははっと溢れたままに笑いを零せば
待たせたし不安にさせたからどーしようかと言った揶揄いを思い出したかのように
『ちょっ、ごめんて。もう不安にさせないし、ずっと離さないから!』
と懇願を繰り出す。
甘えるように。
縋るように。
ほんとに君はそれでいいのか?
君は犬かなにかか?
くゅーんと聞こえそうなほど潤んだ瞳と垂れた耳が見える気がするのは気のせいか?
それにかわい…いや、絆されそうになりながらもどこか後を追うようにして忍び寄るこの感情は。
服従感?従属感?
どちらも心の奥を擽るようで。
ーーーーー”気に入った”。
『どーしよっかなぁ?』
揶揄いの手は緩めない。
これが私だから。
『なんでもするから!』
必死過ぎてかわいい。
もっと揶揄いたくなる。
『へぇー?、なんでもするって言ったね?』
こんな時でも瞳を逸らしたりしない。
離れたりしない。
寧ろ纏わりついてくる君は。
ほんと物好きだなぁ。
かわいそうに私なんかに捕まって。
でも。
そんなところが堪らなく”好き”。
『ちょ、からかって楽しんでるだろ!』
もちろん。楽しんでる。
したり顔でそれに応える。
それに返ってくる君の反応が好きだから。
バレるのなんて想定済み。
それでいい。
ーーーーそれがいい。
ずっとその嬉しさを隠せてない繕ったかのような不満そうな顔で。
ーーーーー「私だけを見てなよ。」
『え?なんて?もっかい言って!!』
『言うわけないよねぇ。』
私の返しを分かってたみたいに拗ねてみせる君。
嗚呼、楽しくって仕方ない。
君の笑顔が眩しくってこれまでがどうとか出会いがどうとか視線がどうとかもうなんでもいいや。
ーーーただ、私は君が好きで君は私を好いてくれてる。それだけで充分。
『え”!!ていうか、返事は!?』
『ふふっ、どうかなぁ?』
『ちょー、澪桜!?』
ふふ、やっぱ私達にはしんみりなんて似合わない。
これくらいの応酬が”私達らしさ”。
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