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第31話

ふっと風が笑った気がした。

古びた古本と僅かなお香の香り。

本に囲まれたこの隠れ家で。


雨の降りしきっていた薄暗さの横たわった森のようなこの場所に。

本の物陰から僅かばかりの陽が差し込んだ。

それを横目にスンっとひとつ鼻を鳴らして肺を満たせばまるで陽を浴びて凛と携えた新緑の清々しさ。


一歩踏み出した君。

揺れ動く空気はふわりと木漏れ日の香りを燻らせて。

温かい掌が髪を梳いた。


ひとときも。

一瞬さえも逃さない様にと絡める視線は二度とほどくことは出来ないだろう。



木の葉を隠すなら森の中。

私たちを隠してくれるのは…。






わたしは。



ーーーーーーーもう迷ったりしない。

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