第8話 王権神授

リビングに集まったタイミングで浮かび上がった白い影―悪魔のようなアイツが、あの日から数えて3度目になる―姿を現したのだが。


「あれ?みんな何か見えてるの?僕にはわからないんだけど、モニターに何か映ってるの?」


海斗には見えていないらしい。遥香と雫はモニターを凝視しているので俺と同じ光景が映っているのだろう。


どういうことだ?考えようとするがあの白い影が喋り出す。聞きたくはないが、聞かないわけにもいかないんだろ?


「力を持った人類諸君、君たちは真の意味で神話の世界へ足を踏み入れたわけだ。

まぁそれでも大半は詰まらない力を望んだものだ。助かりたい、だの死にたくない、だの。もう少し何かなかったのかね?

 それに折角用意したダンジョンに挑む人が少なすぎるな。色々と趣向を凝らしたというのに。製作者としてはもう少し挑戦をして欲しいものだ。   

 そこでだ!意志の力を得た者たちだけに!先行して情報をプレゼントしよう。

実はダンジョンには様々な報酬を用意したんだがね。魔物に対峙するための武器や防具だけじゃなくてね。生活に役立つものや食料なんかも用意してある。樽一杯分の水が湧きだすコップとか。今すぐに欲しい人もいるんじゃないかね?

 勿論、試練も同様に用意してあるが。だが、神はクリアできない試練は与えないのだよ。今の君たちでも十分挑戦できると思う。もっとも、深く潜れば危険だから忠告もしておく。そこで得た力でさらに深く潜り給え。

そして、ある階層までたどり着いたものにはさらなる報酬を出そうじゃないか。

王権神授。

昔の王は神から王としての権威を保証されていたのだ。大体は嘘だったがね。本当のこともあった。今回は正真正銘、神たる私が王権を授けよう。

 どうだ?文明が進み富める物がより富み、権力も富も寡占されていた世界から折角公平な世界になったんだ。力を持った人類諸君はぜひともこれを目指して欲しい。新世界の王になるのを競い合いたまえ。もたもたしてると他人に先を越されるぞ?

 そうだ、最後に人類の話を教えてあげよう。君たち人類はこの一週間ですでに10億人を切るほどまでに人口を減らしてしまった。

 今回は特別に1%の人類、意志の力を持った1%に向けて神のメッセージを伝えることにした。この情報を周囲の人間に教えるも教えないも君たちの自由だ。

 私はダンジョンの奥で君たちの来訪を待つこととする。神話の世界で最初の王になる者に、早く会えることを祈る」

  


……悪魔めっ!コイツは間違いなく悪魔だ。このタイミングでこの情報の提示は悪魔的過ぎるぞっ!?


何と言うか巧妙すぎる。やけに人間臭いというか人間を研究しているのか?ヤツの真意などどうでもいいが。


ただ色んな意味で今回の情報はヤバい。


まずタイミングだ。絶望感が最高潮に達しているだろうタイミング。困窮はひっ迫し救いを求めるタイミング。


そこに具体的な解決策を提示する狡猾さ。パンとワインでも気取ってるのか?危険と思いつつダンジョンを探索するやつも出るかもしれない。いや、いずれは行かないといけないのかもしれない。現に俺たちも検討はしていた。しかし、このタイミングか……


それに、提示する人間を絞ったのも悪辣だ。下手すりゃ自身を選ばれた民だとでも思って新教団の教主になるやつまで出かねないぞ。


少なくとも選民や断絶の原因には十分になり得る。いや寧ろそれを促進している?


そして王権などというバカげた報酬。馬鹿げてはいるが……そこまで困窮していない人間。特に力を持った人間にとっては魅力的に映るかもしれない。


あらゆる奴らに強制的に動機付けしたようなもんだ。最悪なことに俺自身も。


他にも色々とヤバいが……


「相変わらずひどい悪魔様だこと。ただ、なんかコイツの目的が見えなくなった気がするわ。最初は本当に三度目の世界大戦に対する罰かとも思ったけど。なんか、遊んでる?そんな感じがしてきたのよね。余りにも作為的すぎないかしら?」


「遊ばれてる気がするのは同感ですね。それに、やけにダンジョン行けって言ってくるのも気になります。これ、逆に行きたくなくなっちゃいませんか」


「だが、行かなければいけない気もしてたりしないか?それこそ直感的に、だ。それとこいつの目的だが、そもそも無いのかもしれないんだぜ。俺たちの理解を超えた存在、なんだと思う。認めたくないが」


二人は嫌そうな顔をするがダンジョンに行く必要について何か感じるところがあったのだろう、否定はしない。


「あのー。僕、何も分からないんだけど何かあったのかな?教えてくれると嬉しいんだけど」


「ああすまん海斗、、実はだな――」


3人で会話してしまったが聞こえていなかった海斗への説明は必要だったよな。すまん海斗。そして説明を終えると


「あー、そういう感じだったんだ。今回は見てないから分かんないけどさ。1回目より2回目の方が人間っぽいっていうか俗っぽいなーと思ってたんだけど。今回はもっとひどかったみたいだね。それと、僕もダンジョンに行くこと自体は賛成だよ。みんなに流されてるわけじゃないよ?僕もちょっかん?っていうか何か感じることはあるんだよね」


海斗の感想を聞いて俺も考える。あの白いのは確かにどんどん俗っぽくなってるかもしれない。最初は短く超然と振舞ったが化けの皮がはがれて来たか?それとも思惑があるのか。


まぁあの白いのは色々と理解出来ない部分があるからな。そもそもあまり考えたくない。……だというのに結構考えさせらるのはなんかの強制力か?信仰的なナニカ。

一番怪しいと思ってるとこだが、まあいい。


それと海斗が自分だけまだ意志の力がないことについて悩んでないのは安心した。大丈夫とは思っていたが


「そのうち僕も追いつくよー。平和なのがいいんだけどなー。ここ一週間で良いもの作りたいって気持ちはあったんだけど、それは違うみたいだね。なんか条件があるのかな?例えば魔物に遭遇するとか。うん、やっぱり外の探索も始めたいかな。は殆んど終わってるし」


平和を求める意志、か。海斗ならそういう感じもアリだと思う。温厚な顔に似合ってると思うぜ。身体は別として。


「で?雅人は早い方がいいっていうけど、それはなんでかしら。まさか王様になりたいとかは、ないわよね?それが悪いとは言わないけど、ここまで見ててそんなイメージはないのだけれど」


「勿論、王だのは興味ない。しかもアイツに授かる王権なんぞこっちから願い下げだ。ただ授けかたは知らんが直接会えるのなら、一発と言わず殴ってやりたいところだ。と、話が逸れたな。アイツがダンジョンに行くことを勧めてくるからややこしくなったが、元々このタイミングで動くつもりだっただろ?

 ここ数日は街も膠着状態だったがここからは動きがあると思う。その時に余計なトラブルを少なくするためには迅速さが必要だと俺は考える」


「あ、」


「どうした雫?」


「人の動きが出るってところで一つ思ったんです。さっきの声を聞いた人たちがどう思うかって。人によっては選ばれた存在とか思って無茶をするかもしれないです。ヒロイックシンドローム的な行動とか。普通の人はここまでしてないと思いますし、大きな被害が出る前に、動いた方がいいと、思います」


「……あるな。やっぱり情報提示のタイミングが最悪だ。じゃあ今日は外の様子を見に行くことにしよう。全員で動くぞ。家が安全とも限らんしな。それと遥香。街中の赤反応は少ないみたいだがそれが魔物かの確認も駅までの道中でしておいてくれ」


「了解よ。装備は探索用で良いのよね?ダンジョンに入るにしても今日は探索メインでしょ?」


「そうだ。あくまでまずは探索。避けられそうにない戦闘は俺と海斗が前衛で対応。それじゃ各人、探索用装備の準備をして集合だ」


この一週間で必要な準備はしてきたつもりだ。それは各種装備の製作だけでなく、戦闘時の対応方法やフォーメーション。簡単なサインやトラブルシューティングなどなど、ブリーフィング的なことも十分にしてきた。


俺たち4人なら結構やれるんじゃないか?過信と油断はダメだが自信は必要だしな。


俺はこの一週間の成果を前に、少しだけ、少しだけ今回の探索を楽しむ気持ちを抑えられずにいた――

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