第29話 準決勝

「マスター、N国は代表者会議に向けて調整が進んでいるのですが、E国はまだ渋っているようです。このまま傍観していてよろしいでしょうか?」


「ああ。こっちから介入する必要はないよ。出遅れて不利になるのは自分たちなんだからさ。」


「そうですね。他の国はこちらの提案を想定して、少しでも自国の有利なように検討しているようなので、それなりに優秀な人材を出してくるみたいですしね。」


「うん。外交的なセンスと色々な調整のできる人材が集まればいいし、できれば自国の利益だけじゃなく大陸とか人間界全体の事を考えられる人……はまだムリかな。」


「そんな人材は、貴族の特権意識がなくならないとムリだと思います。」


「まあ、そうだろうね。特に初回は国王が出てくるだろうから、まあ主導権争いは目に見えるようだな。」


「いっそのこと、初回は国王の発現を禁止しては如何でしょうか。」


「まあ、それも面白いか。」



 一方で、魔界では4回戦が始まっていた。

 俺の相手は、魔王軍第2部隊長のレイザンという鬼人だった。

 こいつは、エリサの両親を襲った一派かもしれないと言っていたが、流石に対戦でそこを探る事はできない。


「ほう。どうやって入手したか知らないが、俺の作った剣を使ってくれているのだな。」


「ふん。剣などどれでも同じこと。単なる使い捨ての道具だろう。」


「なんだ。部隊長というからどれほどの人格者なのかと期待したのだが、どうやらただのクズだったようだな。そういえば、前魔王の家族を襲ったのも鬼人だと聞いたが、鬼人というのはそういうクズの集まりみたいだな。」


 家族を襲ったといった時に、この男は確かに狼狽えた。

 ちょうど、そのタイミングでホイッスルが吹かれる。


「うるせえ、このカスが!」


 叫びながら突進してくるレイザンに、カウンターで黒棒の突きをみまう。

 きれいに腹に入った突きだったが、レイザンはゆっくり立ち上がってきた。


「この野郎!」


 再度飛びかかってくるレイザンの眉間を狙って突きを放つ。

 完全に沈黙させて、とっとと終わりたかったのだ。


 ところがレイザンは首をひねって突きを躱し、俺の黒棒は鬼人の額に生えた角を直撃した。

 ガキンと鈍い音がして左の角が砕け散った。

 硬い角だ。

 破壊不能属性がなければ、黒棒が折れていてもおかしくない程の衝撃だ。

 ひぃと叫んで尻もちをつくレイザンに対して、俺は黒棒を引き戻して右の角めがけて渾身の突きを放つ。

 一本目が砕けた時の感じからすると、鬼人の急所のような気がしたからだ。


 再び鈍い音がして右の角も折れた。

 その衝撃で空を向いた首を横に払うと、レイザンは3回ほどゴロゴロと転がってアワを吹いて大の字になった。

 念のために黒棒でツンツンしたが、完全に意識を失ったようだ。

 俺は右手を高くあげた。


 あとから聞いた話しでは、鬼人の角は急所になっており、過去数例の角を破損した鬼人は力を失って再起不能に陥ったそうだ。

 2本とも折られたのは魔界でも初めての出来事らしく、どうなってしまうのか分からないらしい。

 まあ、あの程度のヤツならどうなろうと関係ない。


 レツの相手は、軍団長のベリルだった。

 流石に軍団長は強く、レツも5分ほど粘ったがあっけなく剣を喉元に突きつけられ敗戦を認めた。

 次の準決勝で軍団長と対戦するのは俺だ。


 エリサの相手は、俺の造った剣を持った若い男だった。

 エリスは5分ほど斬り合いを楽しんでいたようだが、最後は前の試合と同じように相手のノドに剣を突きつけて勝ち名乗りをあげた。

 まさか、本気で魔王に返り咲くつもりなんじゃないだろうか……


 また1日、休みが入った。


「マスターが角を折った鬼人ですが、先ほど意識が戻ったようです。」


「へえ、それなら殺人は免れたんだな。」


「ところがですね、どうも幼児並みの力になってしまったらしく、自力では歩けなくなってしまったようです。」


「そっか……」


「そして、過去の悪事をペラペラと喋っているようで、どうもエリサ様のご家族殺害も含まれているみたいですね。」


「自業自得ってヤツか……。どうする、復習するなら俺が行ってとどめを刺してくるぞ。」


「いや、今の状態で生かした方が奴を苦しめられそうだよね。」


「まあ、お前がそれでいいなら構わないが、共犯者が分かったら俺がそいつらの角を切り落としてやるよ。」


「ん、アキラに任せる。」


 その日のコチョウからの情報で、レイザンが治療院で殺害された事が分かった。

 その殺人犯をコチョウが追跡し、レイザンの父親が指示を出している事も判明している。


 そして俺たちは準決勝を迎えた。


「アキラ殿だな。」


「ああ、そうだ。」


「まずは礼を申し上げる。このような魔剣を作っていただき、大変感謝している。オリジナルにも劣らない剣に、正直驚いている。」


「それはどうも。」


「そして、おそらくは、魔王様をサポートしてお連れいただいた事にも感謝する。魔王様が復帰されるのであれば、私は全身全霊をもってお支えしよう。」


「何を……」


 そこで試合開始のホイッスルが鳴った。

 俺たちは、キンキンキンと斬り結びながら話しを続けた。


「魔王様ならば、国の一つや二つ吹き飛ばす程のお力を持っておられる。そして、ヒトの勇者も同等の力を持っていたのだろう。」


「ああ。だから相打ちに……なるのであれば、半径10km程度の壊滅で済むハズがない。本当に相打ちだったのならば、あの大陸は跡形もなく吹き飛んでいなければおかしい。」


「まあ、大規模魔法を放つ前に相打ちになったんだろうな。」


「私は色々な情報を集めて推測した。これは魔王様と勇者とが仕組んだ狂言ではないかと……」


「へえ、面白い推理だな。」


「そして1年以上過ぎた頃、魔王様の魔剣を模したこの剣が私の手元にやってきた。」


「それは良かったな。」


「だが、ここまで精巧に作るためには、オリジナルを見ながらではないと不可能ではないか?記憶だけでは到底ここまでには出来ん。」


「オリジナルは、ヒト族が持ち帰ったと聞いたが?」


「うむ。ヒト族が丁寧にミスリル製のレプリカを持ち帰っておったよな。」


「……剣に魔王の名前なんかつけんなよな。」


「分かりやすくて良いだろう。魔王様の剣なのだから。そういえば、極秘事項……というか、私しか知らない事なのだが……」


「何の事だ?」


「魔王様はこの町の葉擦れに、1軒の隠れ家をお持ちでな。」


「それがどうした……」


「人間界には家を守る精霊とかいう存在がいるのだが、それを人間界から見つけてきてその隠れ家に憑けておいたのだが、何故かそれが数日前から活性化しだしてな。」


「……」


「しかもそれが、いつのまにか両隣の家も買い取られて、3軒分合わせたでかい敷地になって、一夜でそれにあわせた広い屋敷が出現した。その敷地の登録名が魔王様の使っていた偽名になっていてな。不思議だろ。」


「精霊は、お前が操っていると?」


「いや、私はソレの魔力を見ていただけだよ。そして、その屋敷は見たことのない様式や工法で建てられていてな。今では敷地に立ち入る事もできん有様なんだが、その門の表札がこの剣の作者だと知った時には心底驚いたぞ。」


「単に同名なだけ……」


「私も建築中に遠くから見たのだが、ジンとレツといったかお主と私に負けた魔王戦の出場者もおってな。いやはや、このアキラという鍛冶師は何者なのか。魔王戦でも準決勝まで残っている実力者でもあるしな。」


 俺は黒棒をしまって刀を取り出した。


「やっと本気で相手をしてくれる気になったか。」


 ベリルの顔から、笑みが消えた。



【あとがき】

 竜人ベリル

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