第4話 エルフの子供を拾ったんだが
「あれっ……」
「どうしたの?」
「ちょっと待ってて。」
俺は右手をピストル型に構え、窓ガラスの向こうに見える森の中に光を放った。
「なに、今の!窓ガラスも割れてないし……」
「後で説明する。それよりも、子供が魔物に襲われてた。ちょっと行ってくる。」
「私も行くわよ。」
太陽は大分西に傾いているが、まだ視界は効く。
俺は100mを一気に駆け抜け、打ち抜いた二足歩行の魔物、ラージコングの横に倒れた血まみれの子供を見つけた。
魔物に咥えられた左手は千切れかかっている。
「まだ息はあるようだ。」
左手を中心にエクストラポーションを振りかけ、もう一本を少しだけ口に含ませる。
意識のない状態で飲ませようとしたら、気道に入ってしまい余計に危ない。
だから、口の中が湿る程度に留めておく。
「もしかしてエルフ?」
「そうみたいだ。とりあえず、家に連れて行って寝かせよう。」
子供にクリーンの魔法をかけてキレイにし、家に運んで居間にベッドを用意して子供を寝かせる。
寝室のベッドをキングサイズに変えたため、今まで使っていたベッドが収納に入れてあったのだ。
まだ呼吸の荒い子供の口に、ガラス管を使って数滴ずつエクストラポーションを垂らしてやる。
「女の子みたいだけど……」
「どうだろう。聞いてみないと分からないけど。」
「触れば分かるでしょ。」
「何をだよ!」
「のどぼとけ。何だと思ったのかな?」
「エルフの身体的特徴なんて分からないし、人間の場合ももう少し大きくなってからじゃないと変化しないから。」
エクストラポーションの効果なのか、1時間ほどで子供の呼吸が穏やかになってきた。
「もう大丈夫そうだな。」
「近くにエルフの里があるのかな?」
「それほど遠くから攫われてきたとも思えないよな。」
「それで、さっきのラージコングを倒したのは何ですか?」
「ああ、光魔法なんだけど、1mmまで光の幅を絞って照射しただけだよ。」
「光なんだ。だから窓ガラスは素通りしたんだね。面白そうだから、私も練習してみよっと。」
「スキル名はレーザーって登録してある。」
「了解。」
3時間ほどで子供は意識を取り戻した。
「大丈夫か?」
「ラナサ、トルレ!」
「ああ、エルフ語か。じゃあ、スキルをセットして……」
「スキル?」
「多分、言語マスターってスキルをセットすれば話せると思う。」
「大丈夫か?」
「ここはどこ?」
「シュア大森林の中の俺の家だ。君はラージコングって魔物に襲われていた。」
「コング!」
少女は自分の左腕を見た。
「大丈夫だ。このお姉さんが作ってくれたエクストラポーションで治療した。」
「ポーション……」
「もう夜だから、朝になったら家まで送るよ。」
「でも、里から出たことがないから分からない……」
「分かるまでここにいればいいさ。」
「さあ、これを飲んで。ミルクとハチミツとポーションを混ぜて温めたものよ。」
「そうだな。大分血を流したから、栄養をとってゆっくり寝たらいい。」
「ありがとう。…………おいしい……です。」
「お腹は空いてない?」
「……ちょっと……」
「じゃあ、何か作っちゃうね。食べられないものとかない?お肉とか大丈夫?」
「大丈夫だと思います。」
エリスはキッチンに行って、食パンをスライスして野菜とチーズと鶏肉のほぐし身を乗せ、上からマヨネーズをかけてサンドイッチを作った。
酵母を使って発酵させたパンやマヨネーズは、俺が教えたものだ。
ニワトリのいないこの世界では、タマゴは繁殖期にしか市場に出ない。
多少高価ではあるが、収納に入れておけば長期保存可能なのだ。
「パンがフワフワでおいしい……こんなの初めてです。」
少女の名前はミュウといった。
シルバーの混じったライトグリーンの髪と同色の瞳に少し尖った耳。
身長は120cmくらいだろうか、人間でいえば小学校の高学年に見える。
着ているものがボロボロだったので、エリスは前に使っていたシーツで、ノースリーブのワンピースを作った。
淡いピンクのワンピースに、肩までの髪がマッチしていると思う。
「じゃあ、顔を洗おうか。こっちにおいで。」
俺は井戸ポンプのところに連れていき、ガチャコンガチャコンとレバーを操作して水を出してやる。
「何で水が出てくるんですか?」
「地面の下に、水の溜まっているところがあって、そこから汲み上げているんだよ。」
「地面の下に水があるなんて……」
「エルフはどうしてるんだ?」
「雨水を瓶に溜めておいて、クリーンの魔法をかけてから使っています。だから、水は貴重なのでこんな顔を洗ったりなんて使い方はできません。」
「まあ、ここじゃ水の心配はしなくていいから、どんどん使えばいい。」
「……はい。」
朝食は、焼いたベーコンとトーストにホットミルクだ。
「トーストにキイチゴのジャムを乗せると美味しいわよ。」
「何でここには、こんなに色々な食べ物があるんですか?」
「まあ、10日おきに町で買い出ししてるからね。」
「だって……森には人間はいないって……」
「まあ、住んでるのは俺たち二人だけど、500kmくらい東に行けば人間の町があるからね。」
「500キロって……」
「移動する方法があるんだよ。さあ、食べたら里を探しに行ってみようか。」
家の周辺は間伐しているため歩けるが、その外側は鬱蒼とした森になっており、倒木などで歩くのも大変になる。
里で暮らしているのなら、同じように間伐がされているハズなのですぐに見つかると思ったが、なかなか見つからない。
「何か目印とかないのかな?」
「えっと、里の真ん中にあるご神木は30mくらいあって、あとは畑とかもあるよ。」
「もしかして、結界とかで隠されてるんでしょうか……」
「あっ、エルフの結界があるって言ってた。だから、ニンゲンや魔物は入ってこないって。」
「結界か、厄介だな。」
「場所が特定できれば結界も解除できるんですけどね。」
「いや、結界を壊しちゃったら大騒ぎになるだろ。復元できるか分からないし。」
「じゃあ、木の上に出て、水平にレーザーを照射したらどうでしょうか?」
「多分、結界は光を通すし、レーザーにあたったご神木は燃え上がるだろうな。」
「ご、ご神木を燃やしたら、長老に怒られます!」
その日は、特に手がかりも見つからず、日が暮れてしまった。
「明日は納品だけど、ミュウはどうするかな。」
「ああ。人間の町に、色々と素材を売りに行くんだよ。売ったお金で、小麦粉とか食料を買ってくるんだ。」
「ミュウも行きたい。」
「だけど、人間がいっぱいいるんだぞ。言葉も分からないし。」
「でも、……色んなものを見てみたい……」
「アキラ君。ミュウに言語マスターのスキルをつけたらいいんじゃない?」
「ああその手があったな。」
食後、ミュウはエリスと一緒に風呂に入り、大はしゃぎした後にリビングのベッドで寝てしまった。
「うふふっ、娘ができたらこんな感じなのかな。」
「でもなあ、君の子供だろ……あんな素直な子になるかな。」
「一番困るのは、アキラ君似の男の子だよね。ワンパクに育ちそう。」
「まあ、勝手に森の中は探検するだろうな。」
「それ、怖すぎじゃない!」
「まあ、結界を抜けられないように設定しなくちゃいけないだろうな。」
「何だか、町で大暴れするところしか想像できないんですけど……」
「ああ、俺もだ……」
翌日、3人は連れだって町に転移した。
【あとがき】
ミュウ……
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