第3話 お前の瞳はルビーみたいに赤いんだな

 窓の外は雨が降っている。

 畑で芽吹いた野菜にも、優しく降り注いでいる。


「なあ……」


「なあに?」


「愛してる。」


「……バカ……」


「何でバカなんだよ。」


「そういうのは、抱く前にいうものでしょ。」


「そうか……悪い、そういう経験値は低いんだ。」


「そっか。ビギナーだったのね。」


「お前だって初めてだったじゃないか……」


「うるさい!」


 顔にバンッとマクラが飛んできた。

 エリサは耳どころか胸元まで赤くしてそっぽをむいている。


 結ばれてから俺たちはベッドをくっつけて寝ている。

 俺の方のベッドカバーは淡いピンクで、エリサの方は淡い水色だ。

 なぜかシーツは逆の組み合わせで、先日汚れたハズのシーツだが、翌日にはキレイになっていた。


「なあ。」


「なによ!」


「この間のシーツの染みはどうやって落としたんだ?」


「うるさい、バカ!」


 エリサは布団をアタマまで被って隠れている。

 布団からエリサのプラチナブロンドの髪がはみだしている。

 俺はエリサの布団に潜り込んで裸の背中に優しくキスをした。


「何よ……」


「アイしてる……」


「……」


 俺は収納から夕べ作ったモノを取り出してエリサの左手を掴んだ。


「どの神に誓えばいいのか分からないが……」


 エリスの左手薬指に、魔石を加工して作ったライトブルーの指輪をはめた。


「俺は、お前だけを……この生が続く限り愛すると誓う……」


「……ホントに?」


「俺の気持ちをその指輪に込めてある。」


「……変身してるだけで、私は魔王なんだよ!」


 エリスがこっちを向いた。

 浅黒い肌に艶のある長い黒髪、ヤギのような角と燃える赤い瞳……


「お前の瞳は、ルビーみたいに赤いんだな。」


「っ…………」


 俺は初めて魔王のエリスと唇を重ねた。


「こっちのお前は胸が少し硬いな……」


「……バカ……」


 エリスは俺の上に馬乗りになり、腰を動かした。


「浮気は……一度までは許す……」


「いや、ダメだろ!」


「っく……2度目は、お前ごと世界を焼き尽くす。」


「浮気したら、即座に魔界を潰す。」


「……私が浮気なんぞするものか……あっ……」


「魔王のお前も、人間のお前も、俺のモンだ。」


「私の全ては……アナタのもの……それは永遠に……変わらない……」


 俺たちは同時に達し、それから何度も長いキスをした。

 窓の外は、相変わらず雨が続いている。



 冒険者ランクをCに上げるには、常設依頼のオーク5体が必要なのだが、その場合は本体を持ち込む必要がある。

 つまり、肉の確保が目的なのだ。

 その代わり、買取はなく報奨が1体あたり金貨4枚になっている。


 この世界には、古代遺跡からごく稀に発掘されるマジックバッグというアイテムが存在する。

 これは無限収納に似た機能をもっており、概ね荷馬車1台分くらいの収納量があるらしい。


 俺たちは最初の素材納品の時にそれを受付に告げており、次からの納品は直接裏の倉庫に持ち込むように言われている。


「こんにちわ。」


「おっ、納品かい。」


「オークなんですが、どこに出したらいいですか?」


「マジックバッグ持ちだったよな。奥の台に乗せてくれ。」


 俺たちは案内された台に、リュックから出したように見せながらドンとオークを乗せた。


「で、でかいな……」


「西の端の森で獲ってきたんですよ。あそこの森のオークはみんな大きかったですね。」


「西?西で森って……」


「ほら、海まで続いてる森ですよ。」


「まさか……シュアの大森林……なのか……」


「名前は知りませんけど、何百キロと続いてる森ですよ。」


「まさか……だが、どうやって……」


「そこは内緒です。あっ、妻の分も出しますね。」


「くっ……、鑑定上はオークかもしれんが、森から出たら直後にハイ・オークに進化する個体だろう。これをオークとして査定する事はできん。」


「そんな……Dランクの常設依頼が……」


「何だ、そんな事を気にしていたのか。安心しろ、ポイントは付けてやる。報奨は個別査定だ。二人ともな。」


「ふう、安心しました。」


「だが、解体と査定はすぐにはできんぞ。」


「ああ、次回まででいいですよ。10日後にまた2匹持ってきますから。」


「こちらとしては有難いが、大丈夫なのか?」


「別にお金で困っていませんし、いくらでも狩れますから。」


「なあ、その……ホントに二人で狩ってるのか?」


「ええ。他に仲間はいませんし、夫婦で楽しくやってますよ。」


「だが、お前は狩人で奥さんは薬師だろ?獲物も腰のナイフだけみたいだし……」


「まあ、登録は狩人でしましたけど、どちらかといえば攻撃系の錬金術が得意なんですよ。ほら、こんな感じで……」


 腰のナイフを抜いて刃を細い針金状にして変化させると、倉庫中の職人が驚きの声をあげた。


「私は薬師ですけど、剣も得意なんですよ。」


 エリスは俺が作ってやったチタン製の青いレイピアをリュックから取り出して見せた。


「そうか、あんたらはマジックバッグ持ちだったよな。武器を持ち歩く必要はないって事か。」


 10日後にギルドを訪れると、報奨は1匹あたり金貨10枚だった。


「鑑定士に見せたところ、やっぱりこいつらはハイ・オークだったよ。肉質もよくて、オークの倍の値段でもあっという間に売れちまった。ギルドの役員と相談して、依頼達成ポイントも倍になってる。」


「じゃあ、3回納品すればCランクですね。」


「ああ。それで、シュアの大森林まで行けるのなら、指名依頼を出したいって要望が来てるんだが、受けてくれないか?」


「そういうのはちょっと……」


「私が事情を抱えていて、家の者に見つかると色々と困るんです……。だから、あまり目立ちたくなくて。」


「ああ、そういう事か。なら仕方ないな。」


「でも、欲しい素材を言ってくれれば、優先的に仕留めてきますよ。」


「そうか!助かるよ。」


 その10日後、3回目のハイ・オーク納品で俺たちはCランクに昇級した。


「あっ、それから妻が作ったハイポーションなんですが、こういうのも買い取ってもらえるんですか?」


「おっ、そういえば奥さんは薬師だったな。ハイポーション20本……って、この色エクストラポーションじゃねえのか?」


「ハイポーションの素材で作ったんですけど、やっぱりシュアの大森林って魔素が濃いからでしょうか。あっ、買取はハイポーションのお値段でいいですよ。」


「そんな訳いくか!ギルドの信用問題だ。ちょっと待ってろ、鑑定士を呼んでくる。」


 俺たちには分かっていたが、鑑定結果はエクストラポーションで、1瓶が金貨5枚の買取となった。

 エクストラポーションになると、簡単な部位欠損程度まで再生できる。

 死にかけた兵士が、目を開けて起き上がるレベルなのだ。

 まあ、その場合は、1本を傷の修復に使って、1本を飲ませてやる必要があるので、2本使う事になるが……


「エクストラポーションなら、国軍がいくらでも買い取ってくれる。これからも定期的に納品してくれると助かる。」


「でも、それって軍から目をつけられませんか?」


「君たち二人の事は、ギルドの幹部も承知している。絶対に秘密は守るから安心してくれ。その代わり、表のカウンターには寄らず、これからも裏に直接来てほしい。」


「承知しました。」


 こうして、俺たちは10日に一度、エクストラポーション20本とハイ・オーク2体。それと、希望のあったシュアの大森林の素材を納品する日々が続いた。

 一回の納品で、だいたい金貨150枚になり、俺たちはその金で色々なものを買い込んでいった。



【あとがき】

 十分に目立ってきている気がしますねぇ……

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