第19話ダンジョン探索中

 こうして俺達はダンジョンの中に潜って行った。

 前列にクレアとステア。中列をシャルロッテ。後列をセリスが担当。

 俺が後列を担当してはつまらないので、シャルロッテの横を歩くことになった。

 松明を灯し、薄暗いダンジョンの中を進んでいく。

 しばらくは何事もなく進めたのだが突如、光る眼が暗いダンジョンの奥に出現した。


「モ、モンスター?」

「ゴブリンですわ」


 ゴブリンは子供ほどの身長のモンスターだ。腕力も知能もそのまま子供並みしかないが、性格は非常に狂暴だ。

 ゴブリンもこちらに気付いたようだ。

 気付くと同時に唸り声をあげて持っていた棍棒らしき棒を振り上げて、こちらに突進してきた。


「みんな! 構えて」


 クレアが叫び、四人は練習の通りに隊列を組んで構える。


「だ、大丈夫っすよ。相手はゴブリン。最弱のモンスターっすから」

「油断、禁物」

「その通りですわ。先生の言った助言を忘れまして!」


 ステラは自分を奮い立たせる為に自分に言った言葉だろうが、確かに油断は禁物だ。

 だが、それほど構える必要もなかった。ゴブリンは棍棒を持っているが体格に合わせてリーチは短い。

 クレアの間合いに入ると上段から大剣を一閃。ゴブリンを両断した。

 斬った後、クレアは蒼白となり、呼吸を荒くして地面に剣をさした。


「はっは・・・」

「クレアさん。大丈夫ですの?」

「・・・うん。生き物を斬ったのは初めてだったから。うん。大丈夫」


 シャルロッテがクレアを気遣う。

 言葉とは裏腹にクレアの顔色は青い。

 殺したゴブリンを複雑な表情で浮かべ、大剣を地面から引き抜くが、持った手が震えていた。


「命を奪うってのはそういうことだ。お前らも覚悟しろよ」


 他の三人に注意を促す。

 三人は神妙にうなずいた。

 もう、モンスターの生息圏内なのだと自覚し、四人はさらに慎重に奥へと進んだ。

 しかし、それをあざ笑うかのように、洞窟の幅が広くなった。それは何を意味するかというと。


「い、いっぱいいるっす」


 幅の広くなった空間にゴブリンが、五、六匹いた。先ほどの生徒達の声を聴いていたのか、皆、既に武器を持ち、身構えていた。


「みんな! 練習通りに」


 クレアの掛け声を口火にゴブリンが飛び掛かる。

 即座にシャルロッテが魔法を放つ。詠唱破棄。簡単な呪文ではあるが得意の氷魔法は念じるだけで発現できるほどにシャルロッテは成長していた。

 氷の刃がゴブリンを貫く。まずは一匹。

 ステラは最初、おっかなびっくりであったが、ゴブリンの棍棒を躱している内に慣れてきたのか、ステップを踏み始め、ダガーでゴブリンを斬り裂く。これで二匹。


「えええええい!!」


 おお。クレアが三匹、同時に突進してきたところを横から薙ぐ。同時にふっ飛ばし、壁に叩きつける。これで四匹。

 セリスが最後の一匹と対峙していた。鉄甲をはめたセリスの正拳突きをくらい、ゴブリンはうずくまる。


「とどめ・・・」


 止めを刺そうとしたセリスであったが、何かに足を取られすっころんだ。スライムだ。セリスはスライムに足を取られ、うまく立ち上がれない。その隙にゴブリンは片手では腹を押さえつつも、もう一方の片手で棍棒を振り上げ、セリスに振り下ろそうとする。

 普段、表情を変えないセリスだが、恐怖で顔を歪めた。

 ゴブリンであっても棍棒で殴られればただでは済まない。


「セリスさん!」


 詠唱破棄して放たれた氷の刃がセリスを襲おうとしたゴブリンを貫いた。これで五匹。


「うう、邪魔!」


 鉄甲でスライムを叩き潰し、セリスは立ち上がった。


「セリスさん。大丈夫ですの?」

「あたしだけ、かっこ悪い」

「怪我がなくて何よりですわ。こんな時こそ連携を密にしていかなくては」

「ん。ありがと。せんぱい」


 シャルロッテに礼を言うセリス。

 一応、注意をしておくか。


「ここが初心者コースだからって油断するな。ゴブリンは子供並みの能力しかないが、逆に子供も武器を持って、隙をつけば大人を殺せる。常に警戒を怠るな」

「「「「はい」」」」

「いや、違うか。そもそもここを初心者コースと思うな。常識に囚われるな。常に考え、思考を止めるな。どんな状況でも自分に何ができるのか考えて動け」

「「「「はい」」」」

 

 今度の返事は先程よりもずっと力強い。

 自分達の考えの甘さに気が付いたようだ。

 ある意味ではゴブリンとスライムはいい時に出て来てくれたと言えるだろう。

 さっそく四人は他にも敵がいないか慎重に辺りを見回した。

 そして、クレアが何かを見つけた。


「みんな、これ見て」


 最初はまたモンスターかと思ったが、どうも違うようだ。


「宝箱っすね」


 宝箱。

 これこそがダンジョン最大の恩恵と言っていい。

 もしここがモンスターしかいないのであれば、ただの魔物の巣窟だ。

 しかし、この宝箱のおかげで人間にも旨みがあり、冒険者の生活の糧となっている。


「じゃあ、開けるね」

「初お宝だ~。わくわく」


 ったくよー。さっきまでの緊張はどうした?

 宝箱に注意がそれて、周りへの観測が疎かになっている。

 まあ、これも経験だ。

 ここでモンスターが出て来てくれればいい教訓になっただろうが、幸か不幸かモンスターは出てこなかった。

 ステラに急かされ、クレアが宝箱を開いた。中身は――


「やくそう、だね」

「やくそうですわね」

「・・・やくそうっすね」

「・・・しょぼ」


 宝箱の中身は一束のやくそうだった。

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