チャプター12:渇望せしもの(4)

「っと!」


 ちょっと考え事に没頭しすぎた紫宿、危うくゴーレムの拳の直撃を受けそうになる。


「ああもう! 邪魔だっ、進めんだろうが!」


 一向に前に進めない紫宿、それはもちろんゴーレムたちが行く手を阻んで延々と拳を繰り出してきているからだ。


「ご先祖、許せっ! こいつら……ぶっ壊す! 来いっ、風伯! 雷公!」


 紫宿がそう叫ぶと、どこからともなく竜巻と雷が場に現れ、その中からゴーレムに負けない巨体を誇る勇壮な男たちが姿を見せた。


『風伯、参った』


 風伯と名乗った男は、鋭い瞳で腕を組み、ゴーレムを睨みつける。


『雷公、来たぞ』


 雷公と名乗った男は、思考を読めぬ瞳で佇み、ゴーレムに向かい合う。


「遠慮はいらない、ぶっ壊せ!」

『御意』

『よし』


 一瞬。

 ゴーレムたちがすさまじい風と激しい雷の嵐に飲み込まれたかと思うと、次の瞬間にそこにあったのはただの瓦礫だった。

 圧倒的な破壊力。


「……ご先祖、怒るかな?」


 ゴーレムたちはもともと人型をしていたのが信じられないほど見事に、バラバラに砕け散ってしまっていた。

 だがそんなことに一々構っていられない。


「風伯、雷公。さすがだ、感謝する。屋敷の中はどうだ? 加減出来そうか?」

『おそらく、我々ではある程度の破壊は致し方ないかと』


 風伯は申し訳なさそうに答える。


「そうか……いくらなんでも、屋敷まで破壊するのはなぁ……」


『主殿、では、フェアリーなどを召喚してはいかがでしょう?』

『ここはあいつ等の故郷にも近い、喜ぶぞ』


 風伯の提案に対し、雷公も賛同する。


「う、う~~ん……」


 風伯と雷公は似たような姿を持ちながら、利き腕が対称であれば物言いも対称である。

 風伯はまさに武士が主に仕えているかのような言葉遣い。

 雷公は不器用な男のようになんともぶっきらぼうな言葉。

 だがやたらに息はぴったりで、この二人が意見を違えたことは無い。


 そして確かに彼等の言う通り、フェアリーならばそれほど大きすぎる力でもなく加減も出来るだろうから、屋敷の中でも効率よく戦ってくれるだろう。

 しかし、紫宿は乗り気ではない。


「俺、あいつら苦手なんだよなぁ……」

『お気持ちは察します』

『あいつ等に悪気はない……たぶん』

「分かってるけどな」


 紫宿は背に腹は変えられない、と腹を括った。


「しゃあない、今は手段を選んでられないか。風伯、雷公、ご苦労様」

『労い、ありがたく』

『またな』


 そして現れたときと同じように、風伯は竜巻と共に、雷公は雷と共に姿を消した。

 紫宿は屋敷の扉の前に立つと、しぶしぶと口を開いた。


「はぁ……シシリー、メアリー。来てくれ」


 溜め息混じりにそう呼ぶと、淡い光と共に小柄な女の子二人が空中に現れる。


『やっほー!シシリーちゃん、推参~っ♪』


 シシリーと名乗った女の子は、パタパタと羽根の様なものをはためかせて、くるくると紫宿の周りを飛び回る。

 その体長は30cmといったところか、しかしその容姿は幼子のものではなく、紫宿より少し年上の女性がそのまま小さくなったような感じだ。


『聞こえていましたよ、紫宿さん。そんなに私たちがお嫌いですか?』

「い、いや決してそんなことはないって、メアリー」


 紫宿がメアリーと呼んだ女の子は、シシリー同様に羽根をはためかせているものの飛び回るではなく、紫宿と目線を合わせるような格好で空中にほとんど静止している。

 シシリーとほぼ同じくらいの体長と年齢に見え大人しそうな印象ではあるのだが、その瞳にはシシリー同様にいたずら好きの光が灯っていた。


『ぶーぶー! 紫宿ちゃんってば、最近私たちを呼んでくれないと思ってたら、ほかの女を作ってたのねぇ~~っ!?』

『そうですね、知らない女の匂いが3つします。泉さん以外に、誰とちちくりあっているのですか?』

「おまえらなぁ……だから呼びたくなかったんだよ」


 どうしてかいつもこの二人は、こうして紫宿をからかっては喜んでいる。

 いや、もともとフェアリーというものがいたずら好きな種族だということは当然彼も知ってはいるのだが、その中でもこの二人は紫宿に対して、もう好き放題言ってくるのだ。

 それは特に気に入られているからだと、守部の先輩たちは言うのだが、当の本人としては勘弁してもらいたいものである。


「状況分かってるか?」

『ま~っかせてよ! 風伯と雷公みたいに、小回りの利かない私たちじゃないのだっ♪』

『相手は紫宿さんそっくりのご先祖様の遺した、屋敷を警備するガーディアンでしたね?』

「ああ。頼めるか?」

『う~ん、どうしよっかな~?』

「おいおい」

『今度デートすると約束してくださるのなら、張り切ってやりますよ? あ、大丈夫です、半日くらいなら人間のサイズになれますから』

『メアリー、ナイスアイディア♪』

「おまえら……盟約を結んだ俺の頼みなら、無条件で聞くんじゃなかったのか?」

『そんな古臭い事言ってたら、時代に乗り遅れるぞ紫宿ちゃん』

『時代は流動するものです、若者がそんなことでどうするんですか?』

「…………はいはい、今度な」


 諦めてそう了解すると、フェアリーたちは手を取り合ってきゃいきゃい喜んだ。

 紫宿は、やれやれとため息を一つ吐くと、気を引き締める。


「さて、入るか」


 そして、屋敷の扉に手を掛けた。

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