チャプター9:渇望せしもの(1)
「そんな、馬鹿な!」
「どしたの、紫宿?」
穏やかであるはずの朝。
そこで突如、起き抜けにテレビの画面を目にした紫宿が血相を変えた。
「そんなはずはない」
「だから、何がぁ~?」
だが彼は泉の問いかけに答えない、いや答えられないと言うべきか。
そしてその鬼気迫る表情のまま、自身の携帯電話を手にした。
「……っ!?」
泉は驚く。
何故なら、紫宿は普段家にいる時は備え付けの電話機を使うからだ。
だがしかし、こうして彼は今現在怖いとも形容出来そうな表情を浮かべたまま、自分の携帯電話を手にしている。
これが意味している事を泉は知っていた。
“緊急で情報が欲しい”
そういうことだ。
相手はまず間違いなく情報屋。
しかも、知りうる中で最も優秀で最も信頼のおける。
どうしてその情報屋と紫宿がお互いに信頼し合っているのかは、泉は知らないけれども。
相手は職業柄、様々な事に警戒をする必要がある。
だから基本的に電話に出ることも無ければ、姿をさらすこともしないのだと言う。
したがって紫宿は家の電話からではなく、特殊な技術を施してある盗聴その他が不可能な自分の携帯電話で電話するのだ。
それならば相手はすぐに出てくれる。
だが、こんな交信をする事は滅多に無い。
それは余程の時、一分一秒を争う時。
もしくは、紫宿に本当に余裕が無い時だ。
唾を飲む。
何が起こっているのだ?
泉には、分からなかった。
『……と、まあこんなトコ』
「そうか。さすがに早いな、俺なんて今さっき知ったばかりなのに、アンタには全部情報が入ってるんだな」
『当たり前。伊達にこの商売やってないって』
「はは、それもそうか。サンキュ、ほっとした」
『料金だけど』
「ああ。いくらだ?」
『これはタダでいいよ』
「へ?」
『タダ。そんな大した情報でもないし』
「だけど……」
『それに何より、朝から紫宿のそんなホッとした声が聞けたからね。こちらとしても目覚めが良いんだ。愛してるよ、紫宿』
「はいはい……まあ、タダでいいってなら、お言葉に甘えさせてもらうが」
『うんうん、人の好意を素直に受けるのは君の美徳だね』
「そうか?」
『そうだよ……と、他にも聞きたい事があるんじゃない?』
「何故分かる」
『ふふ~ん』
「また使い魔か? 今度はどいつだ?」
『あのクッキーね、空中でバラバラになっちゃったよ』
「……わんころ、おまえの使い魔だったのか」
『気付いてなかった?』
「さすがに気付かん」
『まあ、あくまで趣味程度のレベルの使い魔だから、ほとんど霊力を感じないのも無理はないか。時々君の周りをうろつかせていたんだ』
「嫌な趣味だ」
紫宿が溜め息交じりで言う。
そして、次からはまた険しい表情で小声だった。
「……じゃあ、俺が欲しい情報も分かるだろう?」
『いぇす。というよりも、すでにある程度は集めてあるよ』
「な、何っ!?」
『君がそこまで一生懸命になるのにこっちも興味あったからね、きっと尋ねてくると思って用意しておいたんだ』
「なら、話が早……」
『ストップ。ある程度、って言ったでしょ?』
「珍しいな、アンタがそんな言い方するなんて」
『ちょっとプラスで経費が掛かりそうでね、これ以上は君の許可を得てからの方が良いと思って……もしくは、君自身が調査に行くか』
「……場所は?」
『おや、後者を選ぶ?』
「経費が掛かるって事は、遠いだけじゃなく何か厄介ごとが有り得るってことだろ?なら俺自身が行くのが一番だ」
『まあ、そうだね。こちらでは判りかねることが無いとも限らない。餅は餅屋ってやつかな。場所は…………』
「オーケー。料金はいつもの口座に」
『毎度あり~。それじゃ、紫宿。色々と、気をつけてね』
「また意味ありげに言うな、アンタは」
電話を切る。
泉は、意外にも電話し始めてすぐにホッとした表情になった紫宿を逆に不思議に思ったが、またすぐ眉間にシワを寄せて話していた事が気に掛かった。
また、振り返った彼はいつもの平静を装っているけれど――泉には分かってしまう。
「……何をすればいい?」
だから、そのように尋ねた。
本来ならば、そうではなく違う言葉を口にしたい。
だけど無駄である。
何故なら今の紫宿の顔が、守部としてのそれだったからだ。
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