第二話 美少女の弟子ができた。
「……え?」
「ですから、"日本一の配信者"である凛さんにダンジョン攻略のイロハを教えてあげてください……なんですけど、帰国は一ヶ月後なので、それまでに、一旦練習として、私の知り合いを教育してもらいます。りむちゃん、おいで」
受付嬢に"りむ"ちゃんと呼ばれた一人の少女は、力強く歩を進め、片桐の眼前に迫る。
「初めまして、片桐先生。
そう言葉を発したりむは、片桐と唇が触れ合う寸前の距離まで近づいていた。
「ち、近いね」
「すみません。よく距離感がおかしいと言われていまして……」
りむは赤面して片桐から離れた。
りむの容姿は優れている。女性的な顔立ち、ストレートに伸びたセミロングの黒髪は艶があり、よく手入れもされている。そして、何よりもスタイルが抜群に良い。
りむは、ダンジョンで入手したと思われる純白の軽鎧を装備しているが、その上からでも胸の膨らみを隠しきれていない。そしてその豊満な胸がりむのくびれを際立たせ、適度な尻の大きさと長い脚が、りむのスタイルの良さを象徴させている。
受付嬢は、興奮したような様子で言う。
「可愛い子でしょう? でもこう見えて、銀盾持ちの配信者なんですよ」
「銀盾……ダンジョン十回層まで辿り着いた配信者に渡される装備品でしたね」
「そうですそうです。やっぱり知識ありますね! 銀盾持ちになれば、"銀結晶"が使えて、録画容量も増えるんですから、片桐さんも早くダンジョン攻略すれば良いのに……」
「簡単に言いますね……出来ればとっくにやってますよ……それが出来ないから、こうして毎日。銅結晶の少ない録画容量で頑張って配信用にコボルトやらスライムやらを狩って生活しているんです……」
会話を聞いていたりむは、不思議そうに片桐に尋ねた。
「と言いますと、片桐先生は最低辺である"銅盾"の配信者なのですか? 受付嬢さんが推薦していただけると聞いて、てっきり金盾持ちの配信者さんかと思っていました」
「片桐さんは何故か銅盾配信者ですが、実力は確かなモノですよ。心配しないでください」
「そうですか……」
片桐とりむには、不安しか無かった。
ーーーーー
「じゃあ、りむさん、明日からよろしくお願いします……」
「……はい」
「先生を任されたからには、りむさんのタメになる時間を作らなければならないから、最初に聞きたいことは沢山あるんですけど……"配信"が何の為にあるのか、については……あぁ、流石に知ってるか……」
りむの疑念は募るばかりだった。
片桐は初歩の初歩からいるからだ。りむが銀盾配信者と知りながら、まるでりむが初心者かのように接していること。そして何よりも、片桐の自信の無さには、苛立ちすら覚えていた。
(配信とは? 情報共有の為。初めて行く階層に事前準備もせず突入するのは自殺行為。そんなこと、誰でも知っているはずなのに……)
りむが顔をしかめていることに片桐が気づく。
「ま、まぁ当たり前のことだけどね、ダンジョンは一定期間ごとに発生モンスターが変化しているよね? 今は一階層のモンスターといえばコボルトだけど、五年前くらいにはデカい蜘蛛モンスターが一般的だったよね?」
「く、蜘蛛のモンスター!?」
「あ、女の子は虫系のモンスター苦手な子が多かったっけ……」
「い、いえ……なんでもないです」
(発生するモンスターが変化している!? そんなこと聞いたことがない!)
「変化は緩やかだから、僕みたいな馬鹿は、ダンジョンの情報を毎日メモして頑張って記憶してるよ。でも、他の皆んなは当たり前のようにダンジョンの些細な変化に気づいている。本当に羨ましいね、才能がある人は。結局、何が言いたいかというと、配信は、情報の更新の為にある、ということを事前に共有しておきたかったんだ。当たり前のことだけどね……人は一度覚えた情報の更新を怠りがち、ということをうまく利用したシステムだよ、"配信"は。有名な人の配信は見ちゃうもんね」
りむは戦慄した。
(この人は、一体どれほど深い知識を持っている……?)
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