第一話 底辺配信者

 十年前、世界規模の地殻変動が発生した。大陸の形状は大きく変化し、世界を混乱させた出来事だった。

 中でも注目されたのが、多数の遺跡の出現だ。突如として、世界各地に未発見の遺跡が十つ出現した。

 人々はそれを、“ダンジョン”と呼んだ。



 ーーーーー



 一面に広がる草原。雲ひとつない青空。空気も澄んでいる。土地の狭い日本の様に、遠くの景色に山々の連なりが観測できない、広大な土地。

 ダンジョン一階層である。


 そこには一人の男がいた。

 古びた服に安物のレザーを重ねた物を貼り付けただけの装備を着用、錆びついた片手剣、そして鉄製の小さな盾を持っている。

 まるでゲームの雑魚兵士の様な格好が、男の低い身分を象徴している。

 そして、何よりも男の疲れ切った顔だ。童顔であり、実年齢よりも若く見せていることが救いだろう。

 男の名は、片桐心九郎かたぎりしんくろう。齢三十二のアラサーだ。

 元は田舎の工場で働いており、ひたすら同じ毎日を過ごしていた。

 地殻変動の影響で、その会社が倒産。職を失った片桐は再就職せず、ダンジョンに潜ることを決めた。

 しかし、大きく名を挙げることはなく、ダンジョンに生息する謎の生命体“モンスター”の中でも最弱の存在、“コボルト”をひたすら討伐する日々を送っている。

 

 さっそく、片桐は前方に一匹のコボルトを発見した。コボルトは片桐に気づいていない。

 すると、片桐はポケットからビー玉程度の大きさのゴツゴツした物体、“銅結晶”を取り出した。それを、持っている盾の中心にある窪みにセットする。

 その瞬間、銅結晶は小さく鈍い、線香花火程度の光を放った。片桐はその光を確認すると、コボルト目掛けて静かに走り出す。

 

「……」


 片桐は、コボルトが目線を移動させていることに気付く。


「……?」


 コボルトが片桐に気づく。その時には、片桐はコボルトの目の前まで接近していた。


「はッ!」


 片桐は片手剣をコボルトに振り下ろす。

 コボルトは頭部が割れ、黒い液体を噴出させ、霧散した。


 片桐は、すぐにポケットからメモ帳を取り出し、文章を書き込んだ。


[一回層、コボルト、約三十メートル前方、動作なし、目線移動なし、気づく様子なし。約十五メートル接近、目線移動開始、約十メートル接近、こちらに気付くが、片手剣の間合い。頭部に斬撃、一撃で霧散。ドロップアイテムなし。]



 ーーーーー



「受付嬢さん、片桐です。本日の”配信”はコボルトでお願いします」

「かしこまりました。いつもお世話になっております」


 ダンジョンの入り口にはダンジョン管理団体“ギルド”が運営している受付が存在している。役割は、役所と同じ様なモノだ。


「……何度も言っていますが、片桐さんの配信は、簡単に真似できるものではないんですよ? 自信を持ってくださいね!」

「……誰でもできる仕事です」

「そうですか?」

「ええ。退屈な仕事だから、誰もやりたがらないだけです」

「では、必ずしも片桐さん一人がこなす必要は無い、と?」

「……そりゃあそうです。こんな簡単な仕事」

「じゃあ、私が片桐さんにしか出来ない仕事を頼みます」

「…………はい?」

「実は先日、渡米していたである一凛にのまえ りんさんが帰国されたそうなんです」

「それが何か……」

「彼女は久しぶりに日本のダンジョンに来るわけですから、片桐さんは一凛にのまえ りんさん指南役になってもらいます」



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