→→→第4話→♥️
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王弟殿下自らが送って下さると仰り、王家の馬車に乗せられて屋敷へ戻る途中。私はその王弟殿下に甘い微笑みで見つめられながら、ツキツキと痛む額に手を当てていました。
「シェ……ジェット、殿下」
「フローラ嬢になら呼びすてにされても構わないのですがね?」
「ジェット殿下……なぜこんな真似をなさったのですか」
殿下はにっこりと笑みを返します。その美しさは普段なら息が止まるほどですが、今の状況が状況なので心を奪われている場合ではありません。私は先日シェイドを叱った時の、怖い顔をできるだけキープしました。
「おや、そんな厳しい顔をされるとは。でも気高いところも愛おしい」
彼は私の隣に座り、髪を触ろうとしましたが私は顔を背け逃げます。
「誤魔化さないでくださいまし。なぜ、と理由を聞いています!」
「賢く優しい貴女ならもうおわかりだろう? 俺の愚かな甥と、あの男爵令嬢。そして隣国の皇子の目論見を」
「まだ誤魔化す気ですか。それは誰が見てもわかるでしょう。私は貴方の行動を訊いているのです。なぜ自白剤を塗った吹き矢を吹いたのですか。しかも、ご自分も自白剤を飲んだフリまでなさって!」
「……なぜ、俺がこんなことをしたのかわからないと?」
紫色の瞳が真剣な色を帯びます。その瞳でじっと見つめられて私は言葉を吞み込みました。
「わからないなら、わかってもらえるまでこの気持ちを表すしかないね?」
彼は今度こそ、私の象牙色の髪のひと房を取りました。そして私を見つめながらそれに口づけます。その様子に、私の体温がかあっと熱くなったのが自分でもわかりました。
「小さい君に出会った時から、俺は君が好きだった。でもその時既に君はロイドと婚約していたし、俺は末王子だ。末弟の王子は代々王家の『影』を纏める役どころを担わされていてね。病気のふりをして表には出なかった。俺の居場所は王宮の奥深くだけだったのさ」
「あ……だからおにい様は」
ジェット殿下はふっと笑います。その笑顔は年相応に見えました。
「そう。あの時、大して君たちと年が変わらないのに『おじ様』って言われるのは癪だった。だから『おにい様と呼んで』と言った。素直におにい様と言って懐いてくれた君がとても可愛くて、俺はますます君が好きになったんだ。だから傍でずっと君を守りたいと思っていた」
「そんな、殿下
「そうだね。俺自らが『影』となって直接傍にいるなんて異例中の異例だ」
そこで彼はいたずらっぽくニヤリと笑ったのです。
「だがまあ、好都合なことに君はいろんな人から悪意だの欲望だのをぶつけられていたから俺が守る理由になったし。それに君もロイドも愛し合っていたわけじゃない。だからまあ、こういうこともあり得るだろうとチャンスを伺っていたんだよ」
「チャンスって……」
私は呆れてしまいました。それでつい、今まで保っていた眉間のシワが緩んでしまいます。
「あ、やっと怖い顔をやめてくれたね。フローラ」
「!……呼び捨ては許していません!」
「昔は許してくれていたのになあ。ね、ホントに俺のものになるのはイヤ?」
ああ、その瞳で見つめるのはやめて頂きたいです。私の心臓が早鐘のように鳴ります。ジェット殿下に聞こえてしまわないかしら。
「い、イヤも何も私はロイド殿下の婚約者で……」
「もうそれはロイドから破棄したし。それにあいつらが君を貶めようと計画していたのを『影』はバッチリ抑えているから、今頃
「えっ?」
「と言っても、第二王子のブラドの方を王太子に任命するのもタダではやらないだろうけどね。ブラドを持ち上げてたスキルフル侯爵家が後ろで男爵令嬢と繋がってロイドを陥れようとしたから、侯爵家もなんらかのお咎めは避けられないな」
「あ、あの……」
そんな大それたことになってしまうなんて。どうしたら……いえ、それよりも直近の心配をしなければ。馬車の中、彼がどんどんと距離を詰めてこられるので、もう私の逃げ場はほとんど無いのです。
「というわけでフローラ。俺はゲティンボーブド公爵にきちんと婚約の申し入れをするつもりなんだけど。本当にイヤ? 別に王子妃と王弟の妃でも大した違いはないし、『影』を纏める立場って実は王家の中では結構力を持ってるから、君の父上は首を縦に振ると思うよ?」
「う……」
ずるいです。そんな美しい顔で、そんなに熱っぽい瞳で、にこやかに見つめてくるなんて。
「可愛いフローラ。愛してるよ。俺の全部をかけて守ると誓うから、イエスと言って」
私の心臓にストンと何かが刺さってしまいました。多分吹き矢ではないと思うのですが、間違いなくジェット殿下の仕業ですわね。
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